白日朝日のえーもぺーじ

ブログタイトルほどエモエモしくはありません

ルゥシイさんのクソ長2023年

 

・はじめに

「おたおめありですのやり取りを嫌いすぎて、ほぼ誰からも祝われなくなった人間です。22024年もね、よろしくお願いしますー」

「なんでタイムリープに巻き込んだんだよ!?」

 M-1の熱狂冷めやらぬ2023年末にこの記事を書き始めたこともあって、漫才みたいになってる導入のやりとりはさておき、今年もよろしくお願いしますー。

 いやー今年のヤーレンズは(それはまた別でお話ししろい)(うぃ)

 2023年はリアルタイムの音楽をほとんど聴いていないという事情もありまして、ランキング付けとしてはテレビアニメ部門とアニメ映画部門のふたつだけになりますが、どうぞお付き合いくださいませ。結束バンドとのんのんびよりのnano. RIPEとか裏ベストのサントラ収録のアニソンばっか聴いてたけどすごくいいぞ……。

 個人的な好みの感想語りで、ネタバレはほぼ全開になるかとは思いますが、そちらについても容赦してお付き合いくださいませ。あとなんかのブレーキが外れているため、容赦なくクソ長です。これでも推敲はしたんだ許してください。アレだけは許してください! テクノカットだけは!(ここだけ2008年オードリーじゃねえか! 半端に過去戻ってんじゃねーよ! タイムパラドックス起こっちゃうだろ!)(うぃ)

「ワイの神作ないやんけ!(さあ、利き手を上からグイッとリキ入れPC机ドーン!)」とかは自分でもランキングもの見るとありがちなので、いくらでもやっちゃってください。(利き手はやめろブルガリア!)(ネタが古いんだわ、ルゥシイ)(うぃ)

 前年度は『ぼっち・ざ・ろっく!』をどシンプルに1位に選んだランキングですが、さてはて2023年のランキングは……。

 前年はベスト5を決めさせてもらいましたが、今年は音楽もないし、視聴作品母数のほうも100超えるくらいだったと思うので、ベスト10で書かせていただきます。たぶんクソ長いおそれがありますので、ちょこちょこ休憩を挟みながらお読みくださいませ。それでは、ネタバレ回避用の改行スペースを超えてスタートだ!

 

 

 

 

・ルゥシイさんの2023年ベストアニメ10(テレビシリーズ部門)

 

 

 

 まずなにが言いたいかって、取りあえず観よう。オープニングムービーを。

 


 

 はい、観ていただいて分かったと思いますが、ミーア姫がめっちゃかわいいんですね。めっかわです。優勝ですわ。10位じゃんって思われるかも知れませんが、個人的には今年1番のオープニングアニメーションだったかなと。

 ミーア姫の絵がとにかくかわいい、なんかかわいい声、テンポと派手さがなんか楽しい曲、むやみに勢いの良いミーア姫役上坂すみれさんの歌唱、ほとんどミーア姫のかわいさに全振りで動かしてくるアニメーションなど、見どころいっぱいです。

 そしてここで、誤解されかねないので伝えておくと、この作品はあくまでもミーア姫の可愛さだけを楽しむ作品ではなくて、軸の太い物語とそれを支えてゆくことになる、人材発掘育成コントとでも言うべき序盤の内容が特に楽しいです。

 まあ1話レベルの話なので、ネタバレをしていきますが、主人公のミーア姫は、大国であるティアムーン帝国の姫として生まれ、しかしながら20歳前後の頃に帝国内の革命に遭い、長きの間牢獄に閉じ込められたのち、ギロチンによる処刑を受けてしまいます。

 それから、彼女が転生したのは同じ記憶を持ったままの12歳頃の自分自身、そして、生まれ変わった彼女の手元には、自身が生前に記していた処刑までの日々を綴る血染めの日記が……。

 というこんな感じで物語はスタートしてゆきます。(軽いなおい)

 彼女は来る処刑の日を回避するべく自身の行動をやり直してゆくことになるのですが、ひどい人生経験を積んだからこそ分かる、様々な理解や反省行動が、周りの人間には「これまでのわがまま姫とは違う、平民の気持ちさえ汲み上げる慈愛と叡智を持つ姫様だ!」とまで錯覚させてゆきます。

 本人が思いもしてないほうに善意的に、かつ彼女の人生が改善されてゆく方向へと深読みされてしまう、そんな人物間の掛け合いはまさに「脳みそアウトソーシング」とでも言うべき様相。

 周囲の優秀な人間を、意図したりしなかったりしながらその類まれなる人望(かりそめかもしれない)で集めてしまう姿こそカリスマ。でもミーア姫のおかわいい姿を見てるとそれも納得しちゃうよねっていう、デザイン。

 ついでに言うと表情が豊か過ぎる彼女は、ナチュラルにめっかわな笑顔からあきれたくなるほどのゲス顔から、ちょっと連れ去りたくなるテレ顔まで、とにかく色んな感情に乗る表情表現や、キャストの上坂すみれさんのはっちゃけた演技力で、なんだかんだとかわいい方向にブーストされてゆきます。

 やっぱりかわいさが大事なんか、と思われるかも知れませんがそれは一側面なんです信じてください、どうかアレだけは、ギロチンだけはやめてください!(実際に裏でやってるかと思われるじゃねーか!)

 ほんとうに、あくまでこれはミーア姫という、前世でワガママはしたもののけっこうガチの苦労体験(死)をしてきた姫様の、本気の死亡フラグ改変ストーリーなので、そこに多少の幸運な勘違いというバフが乗っても良いじゃない。

 彼女の周りを支えるようになる、イカれた仲間たち(ミーア姫に対する評価がマックス化している)も魅力たっぷり。特にアベル王子とシオン王子のある意味で二大ヒーロー枠のふたりは、物語のなかでもミーア姫との出会いによって精神的に成長するのが素晴らしいです。

 原作がめっちゃ長いらしい本作、第1期としてアニメ化された部分はまだ導入に等しいとのことなので、       

 ほんと2期くれーー!!

 でもあのオープニングは観る快楽物質なので変えないでくれーー!!

 とまあ、叫びたいこともございますが、テンポの良いコメディ描写に対する、明確に国の建て直しや外交などなどに踏み込んでゆく内容は、コメディでありつつも骨太のストーリー性を持っているので面白く、やはり、彼女がほんとうに救われるまでが観たいのですね。

 以上、今年さいかわヒロイン、ミーア・ルーナ・ティアムーン皇女殿下についての感、いや『ティアムーン帝国物語〜断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー〜』の感想を終えさせていただきます。

tearmoon-pr.com

 

9位. BIRDIE WING -Golf Girls’ Story-(BN Pictures)

 

 すげー女子たちによる「ゴルヌ」というスポーツが堪能できる、頭を空っぽにして観るべきスポーツエンターテイメントです。アホな発想のゴルフシチュエーション、どうでもいいメロドラマ、なんか知らんが好きになってるライバル含めたあらゆる魅力的なキャラクターたちが素敵な一作です。

 一見、なんか「女子ゴルフ作品……? デザインも今風のポップかわいいでもないし、地味?」と思うやろ、わいもそう思っとったで、でもな、これはな男のスポーツアニメなんや!!

 男女差別的な視点の話ではなく、スポーツという競技で殴り合って仲良くなってる、古いヤンキーものみたいなスタイルと言いますやら、脚本の黒田洋介先生による名作『スクライド』のクソむさ苦しい漢くささを思い起こさせるような内容になってるわけです。

 

 なんか知らんが技名を叫びつつスイング!(Be Quietじゃ)

 

 マフィアの遊びで行われる、国家予算規模のお金がかかってそうな謎のコースで行われる闇の賭けゴルフ!(コースがもうガンダムのコロニー作ってる感覚なんよ)

 

 いつの間にか頭のなかが主人公のイヴのことでいっぱいになってる恋愛脳ぽんこつヒロイン天鷲葵さん!(お前もう暴君やめぇ)

 

 ツッコミどころだらけの穴っぷりが逆にツッコミ放棄して快楽方向に頭を切り替えられる、そんな楽しさ全開のアニメです。

 無茶苦茶する割に、女子プロゴルフとして常識レベル外のゴルフは後半クールまで行われていなかったりします。けれども、作品を飾る色んな要素やアニメーションらしいハッタリの効いた演出が頭悪くて最高です。

 ドラマ性はまあまああるんですけれども、あくまでもキャラクター間の熱意やライバルたちとのゴルフシーンを盛り上げるための道具立て感覚ですね。でもそれがめっちゃ上手いこと機能してくれるので、結局視聴者としてドラマにも振り回されてしまう。

 ほんと勢いで視聴者を巻き込んでいくそんな女の子たちのゴルフストーリー、観たくならないわけ、ないよね?(いや、大無闇にかぶいとる!)

birdie-wing.net

 

8位. アイドルマスターシンデレラガールズ U149(CygamesPictures)

 

 アイドルマスターのアニメシリーズですが、扱うアイドルたちはみんな身長149cm以内のつまりロリ、やわらかく表現すると恐らく小中学生くらいまでの少女たちがメインのお話になります。ストーリーラインとしては全話繋がっていますが、9話まではおおよそ担当キャラクターにスポットライトを当てたオムニバス的なアニメの仕上がりになります。

 アイドルマスターといえば、プロデューサーと担当アイドルという図式で知られていると思いますが(筆者も詳しくはないです、まあソーシャルゲームの内容からそうなのでしょう)、今作も例に漏れず、主人公であるプロデューサーがこの物語とアイドルを支えてゆきます。

 プロデューサーの所属するアイドルプロダクションでは、会長肝いりの企画として少女ばかりのメンバーが集められた第3芸能課というプロジェクトが動き出し、そこにプロデューサー経験はないけれど熱い気持ちとアイドルに対する夢をしっかりと持った、熱血型で等身大のプロデューサーが配属されます。

 そんな彼が第3芸能課のアイドルといっしょに仕事をしていきながら、トラブルにも共にぶつかり合い、互いに成長していきながら理想とするアイドル像へと彼女たちを導いていくアニメになります。

 オムニバス形式なのでその回を担当するアイドルによってお話やテーマなどの振れ幅はありますが、全話ストーリーとしても面白いエピソードで構成され、やはり核をなすアイドルの女の子たちも表情ひとつからかわいさたっぷりに表現されてゆきます。

 特にストーリーが面白かったのは3話を担当した赤城みりあ回。シュガハのひともアベナナのひとも老練された良い味を出してましたね。それに「プロのアイドルとしての振る舞い」と「彼女自身にしか出せない魅力」に揺れ動く様を綺麗に見せた、4話の櫻井桃華回。バンジージャンプのシーンは落ちる前まで含めて、覚悟の決まっている「自分」を持つ感じがして最高でした。アニメーションもよく作ったよなあ。あれ。

 それからイントロダクションでもある1話と11話を担当した橘ありす回でしょうか、なかでも個人的な評価としてこの11話は昨年観たアニメーションの1話としても最高クラスのエピソードだと思っています。

(ここからオタク口調の早口になります)

 この11話に至るまで1話から丁寧にすこしずつ橘ありすというキャラクター像と、どういう部分にコンプレックスを抱えているかなどを見せていきながら、11話の橘ありすがアイドル活動をどう続けていくかの未来を両親と語るはずの三者面談を通して、一気に彼女が抱えていた両親とのコミュニケーション不全を洗い出しつつ、同時にまた橘ありすという少女の等身大な少女性が浮き彫りとなります。第3芸能課のアイドルに対し大人と子どもという割り切りをしないよう認識を成長させてきた、そんなプロデューサーとの対話を通して、彼女にとってのアイドル像、それから同時にプロデューサーにとってのアイドル像がしっかりと形を取っていくのが素晴らしく、このエピソードにおける物語の白眉としてありすが、ここまで悩んできた「おとなってなに?」という悩み(それこそがありすが理想とするアイドル像について頭を悩ましてきた部分)の本心を力強くぶつけ、そしてその本心こそがプロデューサーである彼にとって「彼女(たち)にとっての(自分にとっての)大人の姿(アイドルの姿)はなんだ」という抱えていた悩みにぶち当たって、涙するプロデューサー、その弱さを見せるおとなの姿こそ、ありすの抱いていた願望によって隠されたままだった両親の涙する姿と重なり、彼女が記憶を辿りながら思い出していく、そのアニメーション表現の凄まじさたるや、1作の劇場アニメを観ているようで素晴らしいです。

 橘ありすという女の子がひとつの大きな答えを見つけ出すための物語に、凄まじいほどの映像演出と音楽演出を見せたこの11話は個人的には伝説に残るアニメーションだったと思います。

 挿入歌として橘ありすの切なく歌う、彼女の心の迷いを描いた『in fact』と、悩みが晴れて少し明るく歌われるアンサーソングのようなエンディングテーマの『to you for me』をその歌詞といっしょに噛み締めてほしいと思います。

 ほんとうに自分がこれまで観てきた、今敏監督の『千年女優』や新海誠の『秒速5センチメートル』など、有名アニメーション作家の作品を思い起こさせてくれた1話の作品です。

 まあそんなこんなで11話を大絶賛していますが、おおよそのエピソードはちょっぴり癒やされてしっかり明るくさせられる、アイドルの卵たちのお仕事アニメであります。

 映像表現として抜群の高い完成度を誇る、アイドルを目指す少女たちの「かわいい」という一面だけでなくあらゆる姿を楽しませてもらう、そんな素敵なアニメーションでした。

 好きなキャラクターは、橘ありすちゃん以外だと、市原仁奈ちゃん、竜崎薫ちゃんですね!

 ロリコンは病気です。

cinderella-u149-anime.idolmaster-official.jp

 

7位. 星屑テレパス(Studio五組)

 

 エッモ!

 エモいです。今風に言うとエモいです。昔風に言うと「ものわびし」とかそんなんです。

「まんがタイムきららのドキドキビジュアルコミックス!」原作でありながら、「まんがタイムきららのドキドキビジュアルコミックス」的なアニメ作品でもないこの作品。

 語るべきところは、「言葉を届かせること」、「それが繋がる場所にあるものをなんと呼ぶか」なのだと個人的に思っています。

 そういった、心と言葉の機微にとてもセンシティブな作品ゆえに、ひとつひとつの、誰かを助けるような言葉も、突き放すような言葉も、全てが等身大の彼女たちに突き刺さっていきます。

 大人になると擦れて失ってゆくかも知れない、言葉に対する力の動きが物語につながってゆく、ものすごく「読ませる」作品であり、同時にそれを興味深く見せるだけの力強いドラマチックさを備えた作品でもあります。

 主人公の少女は「小ノ星海果」、友だちも少なくて人間関係に対してネガティブな少女。少し似たような境遇かも知れない、同じくきらら原作のアニメ作品『ぼっち・ざ・ろっく!』に後藤ひとりちゃんというキャラクターがいましたが、あれよりももっと、描写として繊細に扱われるような、儚げな少女というイメージです。

 彼女の願いは「宇宙に届くロケットに乗って、宇宙人のなかに友だちを作ること」ですが、マジでお前言ってんのか、というやつです。

 ただ、今がつらくて、ここではないどこかなら、分かり合える誰かが見つかるかもしれない。そんなはちゃめちゃに利己的で、切実で、実現可能性も限りなく薄い、その儚い彼女の心では受け止めきれない厚い壁があるかも知れない、でも、自身の高校生活なんかを思い返すと理解できる人間もいるかも知れません。

 筆者もその頃は小説やメロディーのない歌詞(いわば、ポエムですね)なんかをノートの裏側にびっしり書き記した、現実逃避に身を置かないと、現実以外のところに居場所を見つけないと息が苦しい、そんな時代もありました。

 だからこそ全ての気持ちが分かる、とは絶対に言えません。切実さゆえにそれは彼女自身のもので遠いものだからです。

 けれども、彼女のことを理解して友だちになってくれる「宇宙人」に、海果が出会ったら……?

 ス パ ダ リ 明 内 ユ ウ。

 同じクラスに突然現れた、おでこを相手と合わせるだけでひとの心を読めちゃう能力、「おでこぱしー」を身につけている明内ユウという少女が、宇宙人として海果に興味を持ち、彼女の願いである「ロケットで宇宙を目指す」部分で繋がり合うところから、海果にとってのあらゆる出会いと、本来手に入れるべきだった様々なものへの物語が始まってゆきます。

 その内容はときに鋭い刃のようにひとを傷つけるシリアスさや、新しくできた友だち同士のどこか初々しい恋人未満関係っぽさも持ちながら楽しめます。

 おでこぱしー、というおでこくっつけ描写が実質的にはキスシーンにも似たような色合いを持つため、ちょくちょくやられると軽く目を背けたくなるくらい恥ずかしいのですが、それもまたクセになる作品です。

 特に作品のドラマチックさが動き出してゆく、まだペットボトルロケットしか飛ばすことのできなかった海果たちの前に、夢をさらに形のあるものへと近づける、メカニックの素養を持った雷門瞬ちゃんとの出会いからのお話は、「この作品だからこそ見られる切実さ」の詰まった内容です。

 感情のぶつけ合いに観ているこちらが重苦しい気持ちになったり、でもその関係のもつれのようなものがほどけた瞬間は、勝手に涙が溢れてきます。

 切実すぎる願いを持つ女の子たちの等身大なヒューマンドラマ、ではあるのですが、同時に雰囲気を壊さぬままに癒される描写も挟まれる、実はとても良いバランスの作品になっております。

 原作ファンだったので、アニメ化の報には「え!! このシリアスがキツくてひとつバランス崩すと危ない作品でアニメ化を!?」という思いにもなりましたが、結果的にはきちんと「できらぁ!」と、かおり監督が、しっかりその突き刺さるようなシリアスさと、きらら的な癒されて表情豊かでかわいいポップな部分を見せきった、類まれなバランス感覚のアニメ作品にしてくれたことに、感謝しかないです。

 原作読んでいても、個人的にはダークホースでした。ごめんなさいでした、と同時にありがとうです。

 今すぐの視聴をオススメしたいところなのですが、ほぼ有償での配信しか行われていないのが実情です。

 大抵の配信媒体なら1話無料かと思うので、そちらをぜひ観ていただいて、それから続きを観たければ……2024年1月現在、視聴動線としてできるだけ視聴者負担のかからない方法については、全話無料配信のFODに一ヶ月976円で加入して、一気に視聴するあたりかなあ、と思います。

 少し視聴へのハードルはありますが、作品のクオリティは絶対に推せますので、ぜひ。(筆者はニコニコの余ったポイントで視聴しました)

待って、あとオープニングめっちゃ良くて良いの見て!


 

hoshitele-anime.com

 

6位. SPY×FAMILY Season2(WIT STUDIO × CloverWorks

 

 ちちクソださい、なえる。

 ははバトルのひと!

 フォージャー家はおしまいだ、アーニャも捨てよう!

 でお馴染みのこの作品。

 原作からジャンプ系の大ヒットシリーズということもあって、ぶっちゃけ大バジェット。予算マシマシで作られてるのが見えるわけですが、そこのコントロールが実に完璧でしたね。

 Ado×シートベルツ(作編曲菅野よう子)による、口当たり軽いのにスピード感のあるOPテーマに、湯浅監督のケレン味満載のアニメーションは、これまでのちょっとだけスパイ作品っぽくOPしてみました感が抜けて、個人的にフォージャー家のヤバくて一瞬で過ぎ去るスピード感と彼らの関係性が伝わる良いOPと感じました。Vaundyの担当したEDも彼にしてはR&B寄りのポップスとアニメーションが、あの「アーニャのほんとに望むせかい」感を上手く出していたように思います。

 原作未読が惜しまれるところですが、個人的にはケレン味のあるスパイ作品パスティーシュより、その裏にある「家族を成立させよう」という建前が、「家族として生きたい」に少しずつ移っていく2期の描きかたが好きでしたね。

 筆者はアーニャさんの沼にハマって、劇場版のほうでは映画館でグッズ購入にアホな額ぶっ込む様を家族連れのお客様に見られるなど、随分とキモい挙動を見せておりましたが、そんなこんなでアーニャさんが好き(U149の流れで話すな、不穏じゃ)なので、彼女らしい顔芸や、やけに耳年増な脳から口に直結したような物言いが好きでもありますが、その上でこのシーズンは美少女度が上がってましたね。

 いや、プリンセス・ローレライ号篇周りのおでけけアーニャさんの美少女ヅラはあかんでしょ、ただのかわいい幼い女の子やん、これ以上はやめろ俺の財布が疼く——。推しの女に貢ぐ感じってあんなんなんすね。知らん間にフィギュアとかいっぱい買ってた。

 そんで、アニメだけじゃなくてグッズにも色々触れて感じたところではありますが、やっぱりアーニャさんのデザインってのは発明的ですね。

 ちっちゃい子らしい美少女ムーブだけしてるとただの「ろりこん向けいんらんピンク(いんらんじゃなくいらんこコンプレックスのまちがい)」ですが、あの多様なギャグ顔からワクワク顔からガーン顔まで含めた、やっぱり脳みそ直結された多彩な表情表現というのが入ってくると、「ダメな子ほどかわいい的なちいさな女の子のマスコットキャラ」っぽさが出るんですよね。

 意識的なところでやってると思うんですが、アニメ版クレしんの野原しんのすけ感はあったのかなあ。アホをやってもヒーローやっても許される愛されキャラ感を、美少女キャラめいたあの子に導入しちゃったのは見事でした。デフォルメまで含めてかわいいのずるい……。

 さて、アーニャさん語りだけでなく、フォージャー家に触れていくと、今期はやっぱり語りたい芯が「家族」にあるなという。だから殺し屋とバトルのひと(ヨルさん)が戦いながら、家族の日常というものの尊さを伝えるような騒乱と狂乱の長編である「プリンセス・ローレライ号篇」がこのクールの核を為したなという感じ。あの、ちちとアーニャとははそれぞれの戦いが終わったあとの、各々の視点から見る朝日の共有はベタでもあり「家族全員で守った、皆で見ることの出来た穏やかな日々の訪れの証」と思うと、グッと感情に刺さるような描写でした。

 バトルのひとのやべーほど動く、やっぱりジャンプ漫画やんけお前みたいな色んな先輩のパロディ入った対多人数×ほぼひとり暗殺者感には、お前が飛天御剣流後継者かよというヨルさんらしいお死ごとアニメーションっぷりで素晴らしかったです。るろ剣めいた抜刀術持ちと戦うシーンも印象的でしたね。

 ちちはかしこい(かしこくない)けど、それが家族の関わるところでの盲目さを感じさせるのが良かったですね。精密なコンピューターに怜悧な理性で動く人間が、感情に揺さぶられてポンコツになる様はやっぱりみんな好きだと思うのよね。ロイドさんのあの感じを出せたのも、結果的に彼が活躍したのも良かったです。

 その活躍を陰で支え続けた、ちっこい脳みそフル回転の空回り大冒険した、勇者アーニャの大冒険っぷりもまたかわいうて輝いてました。マジで子はかすがい。(呼んだか)(カスがいいわけじゃないぞ、て言うかお前アーニャじゃねえのかよ! 春日かよ! お前とはやってらんねえわ!)(お前、それ本気で言ってんのか?)(本気だったらこうやって、って長話のブリッジに使ってんじゃねーよ!)(うぃ)

 最初のエピソードで尻ナーフかかった笑ってはいけないヨルさんとロイドさんのおデート回から始まり、ボンドにフォーカスされる最終話で挟む形になった全体構成にもテーマ性が感じられて最高でした。

 WIT STUDIO×CloverWorksという今一流のアニメーション制作体制に大河内一楼氏の脚本、そしてなにより原作の魅力であろうノリの良いシナリオが乗った、テーマ性も高い超一流のエンタメアニメーション作品に仕上がり、めっちゃ高い満足感を覚えました。

 アーニャ、さんき、きぼう!

spy-family.net

 

5位. 【推しの子】(動画工房)

 観てる途中で気づいたのですが、『私に天使が舞い降りた!』の制作陣なのですね。あれぞまさに動画工房の真骨頂みたいな、キレキレな間やワードが活きるコメディにかわいい女の子たちの関係性(特にひなた×みゃー姉が好きです)、そしてそこから巻き起こる日常の楽しさと揃った綺麗なトライアングルつくる作品でした。また、平牧監督は個人的にヤマノススメでの担当回も安定していて好きな監督さんです。

 そして原作ですね。これもヒット作品ということで、放映開始前からかなり話題にはなってました。

 一時的に動画工房が事情によって低調なアニメーションの作品をつくったこともあって、「今の動画工房がこの恐らく予算も大きそうなバジェットの企画背負えるのか?」みたいな不安が、筆者自身にもありました。

 原作者の赤坂アカ先生についてもかなり好きで『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』に関しては全巻読みましたし、『ib インスタントバレット』も実質未完ながらに好きな作品です。

 なんとなくこの先生は、書きたいものがあるのに別の方向にセンスが向いてしまうか企画がズレるのか、抜群に面白いけれども最終的な作品を見るとどこかチグハグな印象を受ける作品作りの漫画家さんかな、と思うところがありました。

 そんな色々思うところがあって、『【推しの子】』原作については様子を見ており、アニメ化が初見となりましたが、めっちゃ面白かったですね!

 やりたいことのチグハグさと感じていた部分が、ちょうど良い物語の重さを形作ってテーマ性の活きる設定やストーリー展開、センセーショナルともいえるドラマチックな展開と、元々かぐや様で見せていたような力の抜けたコントのような掛け合いも効いて、「マリア〜ジュ(かぐや様ナレの青山さんのねっとり感で)」といった具合。

 謎を残したまま亡くなったアイドルという、エンターテイメント界の大きなミステリーを、その息子である主人公、星野アクア(アクアマリン)の視点から暴き出そうと、芸能要素へも攻めた、フィクションの闇のようなものまでガチで描きながら、物語を進行させていくドラマチックミステリー。

 もう、魅力的なテーマを取ったなあと思いました。やりたいけれども手をつけづらい作品というか、変に聖域化してる場所にメスを入れていくというのは、独特の快感があります。

 主人公の母親でもあり、彼の前世時代からの最推しアイドル星野アイ、彼女が習熟を通してファンを騙し通していく最高の笑顔を見つけ出すまでの流れなんかとても好きでした。アイドルという「かわいい女の子」のフィクションを体現する感じ、そこに取り戻してしまった人間性から悲劇が生まれる流れまで、よく考えられたものだと思いました。

 また物語を彩る演出も良かったですね。笑いの間のチューニングや、アイドルライブシーンやドラマ描写に於ける魅せ方のハッタリ感とリアルのすり合わせまで実に上手くやってるなあ、と。でも、なんといってもOPやEDを挿すタイミングの良さですね。次話へのヒキの巧さはもうお手本のようなレベルじゃないでしょうか、そのために作られたんじゃないかというような女王蜂の担当するEDテーマのイントロでの雰囲気出しなんかも完璧でした。大バズりしたYOASOBIによるOPテーマ『アイドル』とそのアニメーションの引きの良さも良いのですが、物語への期待に関する部分への寄与っぷりは個人的にEDに軍配が上がるかなあと。

 終始安定して派手な絵面も多いこの作品をアニメーションとしてかわいく続けてくれたのも良かった。魅力的に描かれる星野ルビーやMEMちょに有馬かな(重曹ちゃん推し)、黒川あかねなど、女性陣には内面のシビアさやひとの見方の適度なひねくれ方を与えつつも、そこに説得力と魅力を同時に載せることに成功しているのもすごい。この辺はかぐや様でハーサカとかマキちゃんを扱ってきたバランス感覚でしょうねえ。

 お話自体の良さもありますが、この辺に関してはアニメーションでの描写や声優さん起用の巧みさが活きていたのではないかと。個人的にこの作品以前だと潘めぐみさんという才能はもっと爆発して欲しいものだと思っていたので、良い役来たなあ……と。ある意味このひとにしかできない、女優としての迫力や女子としての性格のぶさいくさをうまく演じきったんじゃないでしょうか?

 総じて、人間ドラマをミステリアスかつセンセーショナルに描きつつも説得力をきちんと持たせた、すごく総合力で良くできたアニメになっていると思います。強いて減点を言うならば、まだたぶん作品としてもっとインパクトの出せそうな話を、次期に持っていくだけの余力を残して1期を戦い抜いたというのが感じられるからでしょうか。

 いちばん好きなシーンは、「今日あま」の原作者さんとその実写ドラマの主演を張った有馬かなちゃんが報われるまでの一連のシーンでしょうか。少し等身大になるかなちゃんと、自然体の嬉しそうな原作者さんの掛け合いの雰囲気がじわりと胸に来ましたね。

 2期は確定しているので楽しみに待つだけですね。視聴者としてはいち早く続編を観たいという気持ちもありますが、ヒット後のため予算もきっとアップするでしょうし、クオリティもしっかり上げてくれるとまた嬉しいですね。

 くそー、少なくとも続編アニメ観るまで原作読む気になれねえー!!

 ほんとうに楽しみです!!

 最後によんおくまんかい再生された昨年バズり倒した、YOASOBIパイセンの『アイドル』PVを。星野アイのPVにもなってますので是非こちらも。


 

ichigoproduction.com

 

4位. 葬送のフリーレン(マッドハウス)



 これも話題性含めてすごい作品でしたね。

「金曜ロードショー」枠で初回4話の2時間放送ということ、この作品をきっかけとした新たなアニメ放送枠を金曜ロードショー後の時間に枠設けて日本テレビがつくったことなど、アニメ化にも大きな期待が乗ったであろうこの作品。

 原作未読ですが、自分の周囲での既読者の多さに驚いたりしますし、記事を書くにあたり調べてみれば、手塚治虫文化賞新生賞受賞や、その他漫画賞の受賞およびノミネート歴にも素晴らしいものがあります。

 要はまあ、無茶苦茶な高さのハードルを置かれたこの作品。制作陣は古くから名作アニメを支え続けて、現在でも人気原作の高いレベルのアニメ化をさせるならここというような古豪マッドハウス、メガホンを取るのは昨年の『ぼっち・ざ・ろっく!』監督としても脚光を浴びた気鋭のアニメーション作家である斎藤圭一郎、そのほか『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』なども担当し、大河ドラマや実写映画の仕事も行う、非常に注目度の高い音楽家のEvan Callなど、本気度の高さがうかがえる布陣といったところでしょうね。

 本編に関してですが、まあ運悪く初回放映日に持病で入院という憂き目には遭いましたが、それでもやっぱりリアタイ視聴がしたかったこともあり、偶然個室を準備してもらえたことで、入院中の割にしっかりと構えて初回放送を観ることができました。

 いやー、観た直後の虚脱感はなかなかのものでしたね。『別れと旅立ち』をテーマにしたお話に自分自身が弱いというのもありますが、それでも決してドラマチックにし過ぎない感動がそこかしこにあり、エピソードごとの寓話性やテーマ性の強さなど、まずお話づくりの骨格の堅牢さが見てとれました。

 その上で、見惚れてしまうような作品を彩る背景などの美術面や、それを決して破綻させることのないさまざまなデザインに、そんなアニメーションをなんの違和感もなく完璧に組み上げる監督のセンスなど、なるほど、映画の放映枠に能う作品だなあと初回で心を持ってかれましたね。

 一枚の絵にできそうな美麗な背景美術に、穏やかながらやわらかく世界を支えるBGM、見事としか言えない画の構図や、視線誘導など細かな映像の管理を見せる、観ている側に負荷のかからないアニメーション美とでも呼ぶものが、たまらなかったです。

「観たかったアニメーション」のひとつであることは間違いないですね。

 フリーレン様の旅というのは、エルフの魔法使いである彼女を含めたヒンメル様たち勇者一行が魔王を倒したその後の世界を、ヒンメル様との永久の別れをきっかけに、長命種であるエルフがゆえか理解することのなかった「人間」を知るため、新たな仲間とともに冒険していくというもの。ファンタジー物語やRPGゲーム世界の細部に彩りを添えてゆくような、そういう作品に「あったかも知れない様々な物語」を、フリーレン様御一行とともに体験および追体験してゆく、王道とメタの効いた冒険ファンタジーアニメです。

 そのままやるとたぶん、『魔法陣グルグル』や昔のドラクエ4コマみたいな、パロディ度の強い作品になりそうですが、あくまでもコメディの描写は作品の雰囲気を和らげるスパイス感覚に、RPGっぽさというのも意図的なパロディ感を抑制したハンドリングで、その手のチープさはほぼ感じられないのが素敵です。

 そして、この核となる物語を構築させるための登場人物たちの深みが作品を支えていると言っても過言ではないでしょう。

 ヒンメル様との死別まで、人間を完全に理解はできなかったけれどもけれども、勇者一行との魔王討伐の旅が彼女の心のダンジョンのとても深いところにある宝箱(ミミックかもしれない)のような「たった10年」「くだらない10年」が刺さったまま、旅に出ては、出会いや些細な出来事をきっかけに、ヒンメル様たちと得た思い出が明確に浮かび上がり、またひとつ「人間」を獲得していく、そんなフリーレン様。どこか人間との距離感の違いを感じさせるけれども、それは決して突き放すようなものでなく、自分の感覚に素直がゆえの「ズレ」のなかに生きる感じがまたたまらなく好きです。

 銀髪貧乳ロリババアです。かわいいね。

 フェルンは巨乳。

 シュタルク様はほんとうに勇者の卵を具現化したような青年。「ヘタレ」と形容されがちな彼は、作中で最も等身大でもあり、自分の弱さをしっかりと知っている人間でもあります。ただし、戦士に必要な覚悟や勇気に、また勇者のパーティをなすための実力そのものなどはすでに身についていおり、足りないものは自己肯定感や成功体験かも知れない、という作中では17歳から登場して広い世界を知ってゆく年齢的にもまだ成長過程と言えるかも知れない彼ですが、魅力的なのは、やっぱりダントツで滲み出てしまう人間みと言えるでしょう。

 自然とひとに優しくできるカッコいいところも、フェルンという同年代の異性との接し方は少しぎこちなくなる初々しいところも、ハンバーグが好きなところも、土下座の速さも、かわいらしい。それでいて、彼には師匠であるアイゼンと生きた時間、彼が師匠から聞かされてきた「くだらない10年」、彼が竜から街を守り続けた長い3年など、無自覚にとても広い時間の尺度を持ったなかで、彼は物事を見られるというのもまた魅力的です。

 彼は彼でフリーレンにとって新鮮な時間の受け止めかたを感じさせてもくれます。ただ、まあ、パーティのなかでは、家族孝行したいけど、なかなかうまくいかない、ちょっと出来のわるいお兄ちゃんな感じもかわいくてよし。つまりシュタルク様はかわいい。

 あとパーティを彩るメンバーといえば、魔族でかつてはフリーレン様と争ったことのあるアウラでしょうか、ちょっと高飛車なところもあり、フリーレン様に強気に出る面もありましたが、服従魔法「アゼリューゼ」の魔法が反転してからは、ツンツンなところのトゲが抜けて、自害芸……いや、それはなんだか別の記憶だ。

 魔王を倒した真の勇者ヒンメル様、彼のほんとうの気持ちみたいなところは、恐らくフリーレン様がその旅への想いを紐解くごとに見えてゆくのでしょうが、誠実かつナルシストなくらいの自信家の明るさを持った、でも恐らくひとを愛する気持ちはとても強いのだと、まだシナリオの途中でも伝わってくるのは素敵ですね。

 それに僧侶ハイターもとても人間くささと聖人らしさの混じり合った、超人的な感性を持つ勇者と、人間の架け橋のような立ち位置で物語と繋がってゆきます。フェルンの育ての親として生きた時間が両者にとってどうだったのか伝わる、フェルンとフリーレンの出会いのお話もまた好きなエピソードでした。

パーティメンバーである、《葬送のフリーレン》、《若き魔法使いのフェルン》、《短小のシュタルク》、《断頭台のア(記憶を混濁させる魔法だよ)、筆者がいちばん好きなキャラクターはフリーレン様です。

 それにしてもこの寓意性の強い物語を成り立たせるため、ほとんどのエピソードに個性的かつ魅力的な生き方をしてきた人物が登場するのですが、これもひとつのエピソードで登場しなくなるのがもったいないほどです。フォル爺さんのお話は、フリーレン様との間に直接繋がりのある人物であることも含めて、ひとを見抜くような「食えない」性格や、あと頑なに長きの間、彼が愛した女性との約束に人生を尽くしているというのもまた好きです。たとえ、その記憶が薄らぐほどの長い年月でさえ、変わることのない愛のある「頑固さ」がとても魅力的でした。そういった存在こそがフリーレン様たちの物語を彩っていくのも素敵。彼らの存在感が物語のテーマ性と世界の実在を感じさせてくれますね。

 あと語り忘れてましたが、普段のストーリーを静とするなら動にあたる、シュタルク様が竜を倒すシーンのようなアクションアニメーションの素晴らしさもまたこの作品の良さでしたね。あのシーン周りのアニメーションに、自分がしばらくの間最も推してるアニメーター吉原達矢さん(『波打際のむろみさん』『ブラッククローバー』監督、『チェンソーマン』アクションディレクター)が参加してるのも嬉しかったですね。あのひとの「The アニメーションによるハッタリ」感のあるスピードと迫力に溢れたアクションがコラボしてくれるとは思ってなかったので、嬉ションしながら死んだもよう。

 とまあ、4位の作品のくせに長々とした感想にはなりましたが、先述の人気作品『【推しの子】』ともまた違う、「エンタメ快楽全開!」ではないながらも、様々な角度から観て黄金比のような美しい作品。

 フェルンの乳がもっと小さければ、ランキングベスト3もあり得たのかも知れませんが、それはまた別のお話。自分のとっては、そこだけしか減点法の効かない素晴らしい作品でした。


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frieren-anime.jp

 

3位. 江戸前エルフ(C2C)



 日常の大切さが伝わるアニメ。海外輸出したくなるようなメイドインジャパンなクオリティの「こういうの『が』良いんだよ」な日常人情コメディアニメでした。

 作者にキャラクターが愛されてるなあという感じから、制作陣に原作が愛されてるなあ、というところまで伝わる、なによりこの雰囲気を作るのが大事というツボを常に押さえ続けた、作品全体の色合いの統一感が美しい。

 この作品の魅力といったらやっぱり登場人物みんなでしょうね。全員がこう、悪意的な存在感がいないというか、良くも悪くも欲に忠実だったり俗っぽいのだけれども邪さはなくて、彼女たちなりの対する者たちへの「愛」が伝わるのがとても素敵です。

 中でも、エルダリエ・イルマ・ファノメル、通称「エルダ(様)」「高耳様」、彼女もまたフリーレン様と同じく種族がエルフではありますが、お互いに長命種ゆえに持つ時間感覚のズレや人間との生きる尺度の違いが描かれたりはしますが、彼女の場合は生きてきた土が土臭えんじゃ。

 高耳比売命(タカミミヒメノミコト)として400年以上も前に召喚されて以降、高耳神社で祀られ続ける会いに行ける621歳の神様であり、高耳神社が座する月島で愛され続ける守り神のような存在。だけれども、少なくとも今の彼女は神事をあまりやりたがらずに、拝殿(オタク部屋)にこもってゲームやアニメにプラモなどを楽しむオタク趣味全開のひきこもり神様。

 彼女が面白いのは、オタク趣味、というのが現代に限らず、浮世絵やギヤマンのような恐らく召喚された時期のようなずっと古くからのもので、つい得意なジャンルの話になると講釈を垂れ流す様はやっぱり生きた人生の尺は違えどオタクかなという感じ。

 だけど決して完全なる自分本位というわけではなくて、駆り出された神事にはきちんと応えて行うし(当たり前だろ、氏子もガッツリ対価を払ってんだよ)、エルダの巫女(お世話係)にあたる小糸にも抵抗しつつ結局は従ったりとまあ、大事なこと以外なら結構折れてもくれる神様です。(そんくらいでも神なら心が狭いんだよ! むつみ荘かよ!)(うぃ)(否定しろよ! 失礼なままになっちゃうだろ!)

 先述した巫女、小金井小糸が視点人物であり彼女また主役でしょう。背伸びしたがる女子高生。ステレオタイプな大人の女性像に憧れつづけて、つい身の丈に合わないブランドものの商品を買ったりするのも、なんともいえない味わいのかわいさがあります。

 本来ならもっと派手なキャラクター設定にも置けそうな位置の人物ながら、基本的にはエルダというある意味でひたすらボケをやる相手へのツッコミ女子というところもあり、微妙なところで表現の過剰さを抑えられていて、そういうキャラクターの見せ方の捌きっぷりも好きです。かわいいに対する強いデフォルメをかけないというか、等身大のような女の子にちょっとしたいじり甲斐のある部分を出すことで、すぅっと受け取りやすい独特の「かわいさ」を伝えてくれるのがとても素敵です。変に押し付けがましくないというか、そういう。

 エルダ様と同年代のエルフ巫女であるヨルデ様はまたもう完全に別種のかわいさ。こちらは完全にロリ特攻。お子ちゃまかわいい622歳。お姉さん風を吹かせようとするのに全然上手くいかないと泣きながら拗ねる姿なんかほんまお前神なんかという有様でかわいいです。釘宮理恵さんの直球のロリキャラボイスもこれしかないなというハマり具合でした。彼女もまた、エルダと違う「推し活」にハマってるようで、2期とか制作されたらその辺りにもうちょっとスポットライトが当たるんでしょうか。

 巫女の小日向向日葵ちゃんとは、仲の良い姉妹の関係みたいで、どちらがお姉ちゃんかはさておき、とっても癒される大阪のエルフたちなのでした。(でもワイの最推しは小金井小柚子ちゃん! 雨でびしょびしょの身体を乾かすシーンが好きなんじゃあ〜! 「ロリコン、自害しろ」)

 それにつけても、もうひとつの素晴らしさはコメディとシリアスのコントロールですね。この作品が持つ感動ポテンシャルについては、同じエルフの主人公の視座とそれに付き合う人間との時間の尺や生きる尺に焦点を当てた『葬送のフリーレン』のようなドラマをつくることも実は可能だったりします。

 意識的にやるなら、商店街のシマデンの婆ちゃんとのエピソードを掘り下げるだけで、小糸の母である小夜子に関する話などを引き出せて、複数回分の感動エピソードなんかが作れそうなわけです。かといって、そういうのをメインテーマにしたエピソードをやるかというと、ほとんどやって来ない。

 ある意味でいちばん感動を意識させたであろうエピソードであるスカイツリーでの遥拝神事である6話なんか、どこかにスイッチを置くだけ、あとは特殊エンディングを流しながらでボロ泣きみたいなこともできたはずですが、その切ない空気そのものはきっとエルダの望む世界ではないのだと思います。

 小糸に大事に思われたい、出来るだけ長い時間を共にしたい、そこまでは思っても、哀しいことや別れを小糸に意識させたくはきっとないのだと思います。

 だからこそ、切り替えるようなお馬鹿な掛け合いでお話を締める(ただし通常エンディングが実はこのエピソードに向けて作詞されていたという、おまけ付きの展開)。こういう匙加減がとても心にくいと思います。カッコいい、と言い換えても良い。

 ベータに撮影された小夜子の映像の話なんかも、実際は『Cowboy Bebop』の「スピーク・ライク・ア・チャイルド」回のオマージュのような気はするのですが、あのような感傷を残しはしない。

 亡き母の移るビデオテープに小糸の感じた複雑な想いも、笑える想い出で上書きしていくような、そんなエルダだからこそ、月島の人々に愛され続けたんじゃないかなとも思います。

 最終話に先述した6話を持ってくるのではないか、というのは結構な数の原作読者が想定していたようですが、実際に最終エピソードとして流れたのは、いつも以上になんも特別さのないような、穏やかな日々の小さなお遊びみたいな1話。おみくじひとつでころころ変わる、誤差程度の変わらない毎日。それがエルダの愛する日常なんじゃないかな。

 だからこそコメディ回のおちゃらけ感みたいなものをこそエルダは全力で楽しみつつもどこか遠い目線で眺めて、その先にはいろんな感情が混じる。

 OPとEDテーマの曲と歌詞、映像のバランスが作品と総合してみたときにびっくりするほどまとまっているけれども、それを簡単には気づかせてくれずにかわいらしい雰囲気で楽しませてくれる。

 笑えて泣けて楽しく癒されて、けれどもそこに負の感情が混じらない。日々の楽しみに喜びにほんの少しの切なさが混じる、毎日がすこし大切になるような、そんな作品。月島のひとたちに愛された高耳様のように、愛され体質な日常アニメでとっても素敵な一作でした。


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2位. もういっぽん!(BAKKEN RECORD)



 1位とこの作品は記事を書く直前に再視聴していたのですが、実際もう完全に同じ順位で良いかなと思いもしたものの、もう少しだけ厳密に考えて順位をつけさせていただきました。

 この作品には何度快哉を叫んだことか。とにかく、キャラクターとその置かれたシチュエーションに共感と熱が同時に伝わってくる、作品からの熱量みたいなものが特別な、そんなど真ん中に投げてきた素晴らしい女子柔道青春アニメでした。

 テーマとして女子柔道を選んで有名な作品といえば浦沢直樹原作の『YAWARA!』でしょうか?

 あれもまた、原作力の非常に高いアニメとしても面白い作品だったとは思いますが同じスポーツを扱いつつも、まあほぼ別物と思っていただいていいでしょう。

 スポーツものといえば、結構なあるあるが存在します。「そのスポーツに向いていないかと思われていたが、陰の努力家でもあり、序盤はほとんど隠れていたその才能が徐々に開花」したり、「全くの素人ながら、これまでフィーチャーされなかった別の競技からの特殊能力みたいなものが活きて徐々に無双していく」、「ただ最初からフィジカルがお化けで技術が身についた瞬間に化け物になる」、だいたいドカベンでやり尽くしてんな。みんな、名作野球漫画『ドカベン』を読もう!

 とまあ、そんなことを言いましたが別に読まなくて良いです。野球漫画ながら序盤の中学編に柔道部展開があるとか筆者がそのあたり割と好きとかどうでも良いです。

 それはそれとして、他にも多数あるキャラクター無双類型みたいなものがスポーツ漫画には星の数ほど存在し、『もういっぽん!』がそれとは真逆の話かというと、それも違います。主人公の園田未知は1期の段階だけ見てもフィジカル能力だけだと、その時点での全キャラクター中トップクラスです。自身で肩を外しての押さえ込み抜けをやってみたり、投げ技を体操競技のバク宙のようなアクロバットで回避してみたり、すごいフィジカルの持ちの主であることは明らかになっていきます。

 ただ、彼女たちの戦いは全くもってほぼ無双とは言えないものです。勝っても負けてもギリギリな、かなり泥臭い展開になったり、逆転に次ぐ逆転な展開でも星を落としたり、ただそのギリギリ加減が最高に熱中させられます。いわゆる野球でいう「ルーズベルトゲーム(8対7の得点差によるシーソーゲーム)」な試合展開。だからこそ、どちらの選手にも応援したくなってしまうし、試合の前段や途中には必ず、相手校への愛着が湧くような人間味のあるエピソードや、単純に感動的なエピソード、良いひとらしさが伝わるエピソードが入ってくるのですが、そのほとんどのところで上手く絡んでくるのが、コミュニケーションと距離詰めオバケの園田未知。

 中学からずっと同じ柔道部で活動している滝川早苗曰く「空気を読めないけれど、空気を変えてくれる」そんな未知が居るからこそ、ただ相手校とバチバチになるのではなく、ちょっとした緩衝材となったり、相手の懐に入って素の部分へと踏み込んでいく、そんな彼女がいて、場外のお話が楽しくなり、かつ試合内容は余計に視聴者として気持ちの乗った興奮させられるものになるといった構成。

 その流れが爆発するのが、前半エピソードの山場であるインターハイ県予選での未知たちが所属する青葉西高校対霞ヶ丘高校戦。その最も興奮度の高い一戦といえる青葉西の氷浦永遠対天音恵梨佳の対戦。

 元々、永遠ちゃんと恵梨佳は同じ中学で、偶然見かけた武道場でひとりひたむきに柔道へ取り組む姿に憧れ、入部していた柔道部。才能があった彼女は先輩として実力もあり良い指導をしてくれる恵梨佳と練習を続けるうちに才能が開花し、一年後輩ながら彼女を押しのけて団体戦のメンバー入りを果たすまで強くなる。しかしその後は思った成績が出せず残った後悔で、迷いがあるまま続けていた中学柔道部として最後になるかも知れなかった大会、そこで出会ったのが園田未知。劣勢でも楽しそうに、ふと勝機を見つけたら飛び込んで来るような彼女との対戦に、柔道に対する楽しさを久しぶりに感じて、彼女を追って青葉西高校に入学する永遠ちゃん。未知自身は実際に中学最後の試合となったその試合に敗北した後悔がなければ、もしかしたら柔道を辞めていたかも知れなかった、別の青春へと自分を切り替えていこうとしていた矢先での出会いで、早苗も含めた3人で柔道部を結成(復活、再始動)させる。

 それぞれの存在なくしては始まらなかった物語。

 ましてや永遠にとっては悔いを晴らすための勇気を得るための一戦、恵梨佳にとっては彼女とのパフェもいっしょに食べに行くような楽しい関係を築けていたのに、それをレギュラー落ち以降自分で壊してしまった後悔を晴らすための勇気を得る、そんな一戦。

 この試合がまた、アニメーションのハッタリが効きまくった描写で素晴らしい。思い切ったカメラワークで目を惹きつけると、試合で優位を取るための手捌き足捌きひとつ、展開が動くシーンでのスピード感は、あえて中割りを抜いてみたりする挑戦的なアニメーションをしてみたりと、とにかく楽しい。

 映像化される柔道という競技の細やかな駆け引きによって、スポーツとしての描写に説得力が出るアニメーション。決着をつける技も象徴的だし伏線も効いていて良いんですわ……。柔道描写への興奮度に合わせてそのバランスを踏み外すことなく、集中させて見せる一戦。

 その対戦後の晴れやかな涙の永遠ちゃんに、後輩へカッコいいところを見せながら、これからまた仲良くしたい気持ちが言外に伝わる恵梨佳の精一杯の笑顔と、チームメイトにしか見せない悔し涙が印象的でした。

 対戦を通じてストーリーと同時にキャラクターの背景を見せていくというスタイルは、斬新とは言わないけれども、スポーツものに気持ちを乗せるとても優秀な手法だなと感じました。

 ただこれはよほどハンドリングが上手くないと、描写がチグハグでテンポがないな、という印象を抱かせることにもなるので、見事に緩急として扱いきったスタッフ陣全員の技術が光った作品なのだと思います。

 さて、登場人物の魅力について語り尽くすと紙幅も尽きるし、もしこの記事を読んだあと作品を観たいと思ったひとがいると、邪魔になるのでメインの青葉西高校の部員たちを紹介します。

 まずは主人公の園田未知。明るい性格で物怖じをしない、なんでも本気で挑んでぶつかり、相手の良さを引き出して自分さえ高める。柔道に於ける創始者加納治五郎師範により提唱された指針のようなもので「自他共栄」というものがありますが、意図せずそれを体現してしまう、自分にも味方にもその相手にまでバフをかけるような存在というわけです。もしかすると、この作品にライバルは居ても敵が存在しないのはそういう指針に対する意識があるのかも知れません。

 未知の特性でもあるコミュ力お化けという部分はここに由来していそうです。ほんとうに真っすぐで、自分にウソをつききれない素直な子。元気だけど適当で勢いだけで生きていそうなのに、いつの間にか相手を巻き込んで楽しい雰囲気にしてしまう、そんな女の子です。生まれながらの主人公属性です。関わったみんなが時に呆れながらも惚れこむ女の子、そんな園田未知。

 柔道の実力に関しては、幼なじみで青葉西の剣道部所属の親友である南雲が認める「すごい低さでリンボーダンスをこなす」という身体の柔らかさや体幹面に由来するフィジカルはありますが、中学時代に技術面を獲得しきれなかったのか、伸びしろはいっぱいあるのに、ほんとうの実力が見られるまではもっと長い時間がかかりそうな、成長が物語になりそうなタイプです。

 作品として扱うスポーツの描写にあまり嘘をついてないぶん、すらっとした女性も描かれるのに対して、未知自体の身体つきは短身で、でも柔道をするには必要な筋力を感じさせるようなやや寸胴系。けれども先述した明るい性格やそれを精一杯に身体で表現するような表情の豊かさ、恋愛ごとに関しては妙に夢見がちな一面などまで含めて、視聴者にとっても見ているだけで目に留まってしまう魅力的な女の子です。

 そして、中学時代から部員の少ない女子柔道部を未知と支え続けた相棒のような存在のキャプテン滝川早苗。早苗は未知曰く「責任感の鬼」だそうで、自分に課した責任も誰かに背負わせた責任も自分ひとりで背負ってしまいがちなところもあるけれども、単純にいつもプレッシャーに負けるというタイプでもなく、時にはチームメイトや他校の選手から奮い立たされて気合いが入るような女の子でもあります。

 優しさのある委員長眼鏡タイプで、成績は親に学業成績を落とさないことを約束したのもあって、学年トップをキープしながら部活に励んでいます。

 柔道のほうは寝技を得意としたスタイルで、相手を疲れさせる粘りが重要な柔道。ずっといっしょにやってきた未知だけでなく、早苗の対戦を見た相手チームが警戒する程の寝技の実力を持っています。大会ではなかなか上手く勝てないものの、彼女の敗北がまたチームに勝利を引き寄せるタイプの、相手を消耗させつつ味方というか後述する先輩の姫ねーさんに「(この子のためにも)勝つ以外ある?」と思わせる女の子です。

 未知が全方向に力を与えるタイプなのに対して、早苗は味方に特化しているのかも知れません。彼女はほんとうに声優さんの安齋由香里さんの感情がそのまま視聴者にぶつかる質量になるような熱演もあって、地味な容姿に対してとても強いインパクトを残してくれる、ほんとうの名脇役です。

 それから、先ほど話した姫ねーさんこと姫野紬。未知たちの世代からすると2年先輩の3年生であり、美人さんです。青葉西の選手では唯一すらっとした体格でもあり、その分、階級への取り組み方がうかがえるところもありますね。

 女性部員が彼女ひとりになっていた柔道部を顧問の夏目先生と共に支え続けたものの、一度、続けるモチベーションを失って柔道部から離れていたところ、未知たちの柔道部復活(再始動、結成)とその一生懸命かつ楽しむように部活動に取り組んでいく姿に影響されたり(そこにはもうひとり未知に影響を受けた存在からの言葉も後押しに)して、彼女も半引退していた柔道部に戻り、顧問の夏目先生とともに指導を行いつつ大会に向けて必死に取り組み、とある回で、また素晴らしい一戦を見せます。

 情熱や努力などをあまり表に出さない部分があるのか、秘めた闘志に火がついた瞬間の彼女の振る舞いや試合ぶりには、三年生で残りの時間が短いという部分まで含めた必死さがあって、そこにまた視聴者としては気持ちが入っていきます。半引退中もバイトの合間にランニングを続けて体力維持を欠かさなかったりそのほか、こそ練の多い陰の努力派ですが、経験豊富な実力派であることを含めて、試合展開が手数も豊富で見ていて楽しい柔道をします。

 同世代で未知たちと出会った世界線が見たい、そんな姫ねーさんです。立ち居振る舞いひとつに姉御ムーブが入って最かわで最かっこよです。

姫ね―さん、ほんまカッコよ。。。

 続いては百合好きにはたまらねー女の子、南雲安奈。幼い頃から剣道を行い、小学校時代から全国レベル、高校は一年初の大会から剣道部インターハイ出場の立役者ともなる本人と父親曰く「神童」の南雲。

 そして未知への愛が重い南雲。本作では第一話から登場し続けるのですが、まあ、剣道部のくせに未知のやることなすことに付き合って、常に剣道部に勧誘しようとずっと絡みます。些細な行動ひとつにも、未知への距離感の近さが滲み出ます。未知の食べてるパンをこっそり奪おうとしてみるとノールックで逆襲に遭ったり。未知からは特別雑に扱われているようでもあり、その実、大会ではお互いに絶対応援してもらったり、もう重い幼なじみだよ。

 そんな彼女はOPED見てればだいたい分かるんですが、まあ予想通りの展開が訪れます。その決断に関してなんですが、決して軽率な考えじゃないのが良い。

 あくまでもこれまで大好きだった剣道を蔑ろにするわけではなく、きっと今しかいっしょに戦えない大好きな幼なじみとの時間を選ぶ(彼女は警察官の父を尊敬しており、その道のエリートコースを目指しているため、未知とは将来の進路が分かれてしまう)。

 アオハルが過ぎる。

 彼女の重い愛情が製作陣にも愛されちゃったのか、彼女がクローズアップされる回やシーンは美少女度割り増しで描かれることが多いです。南雲かわいいよ南雲。

 そんな彼女たちの物語を動かしてくれた氷浦永遠ちゃん。一目惚れ感覚で柔道部に入部したり、そんな柔道で得た感覚を再び得たいという想いで、有名私立高校からのスカウトを蹴って、一度しか対戦していない園田未知が志望する青葉西高校を受験したりと、なんだかんだいっていちばんお前勢いで生きてねえか、というような天才柔道少女です。(天才ってそういうものなのかも知れないんですが)

 彼女はこの作品にしては珍しい、割と明示的な陰のひとの性格持ちです。特に中学時代などは周りから指摘されるほどのマイナスオーラを持つのですが、未知との出会いや再会を経てからの日々を過ごすうちに、少しずつ自分の言葉で言うべきことを相手に伝えられるようになっていく様が、未知とは対になっている存在のようで面白いです。お互いがまるで違い、だからこそお互いの良い部分を認め合って高めていけるような、部内での「自他共栄」の象徴的な関係性かも知れません。

 実力は明示されていませんが、インターハイ出場レベルの二年生を瞬殺するほどなので、よほどのレベルにあたると思います。それがゆえに団体戦だと大将枠に置かれがちなため、はっきりとした実力が描かれる場面は今のところ少ないですが、ひとつ言えるのは恐ろしい吸収力の高さでしょうね。中学から柔道を始めて、小学校時代には柔道を始めていた未知たちを圧倒するほど、あっという間にその実力を追い抜いており、作中でも大会中に部員たちやその対戦相手が使用していた技を見よう見まねで、一段階レベルの違う連携にまで持っていけるような吸収からの応用力を持っていたり、顧問の夏目先生も認めるほんとうの実力者です。

 彼女がいちばん活躍できる出番ってなんとなく、未知の柔道が完成される場面と重なるんじゃないかな、とかなんとなく思っちゃうので、こう、最終話のようなものがあるならば、ふたりの最高の状態がぶつかり合うような一戦とかが観たいですね。同じ学校の部員なので個人戦とかで、と思うんですが階級が違うので、まあ、なにかしらのエキシビションみたいな形でも観てみたいものです。

 最後に女子柔道部顧問の夏目先生、これって地味に発明なんじゃないかなあと思います。一見イケメン男性のようなでも女性らしいかわいらしい一面も備わっている、「部員には無理させすぎないブレーキ役にもなる指導者」。この部、やる気のある生徒ばかりが居すぎなんですよね。みんなこそ練するし……。

 まあ先述の部分でもちょっと特殊な面はありますが、発明的かなと感じたのは大会全体や試合描写における立ち位置ですね。夏目先生は非常によく生徒のことを見る、とても面倒見の良い先生です。ひとりきりの柔道部を支える姫野に対して、練習だけでなく頻繁な出稽古にも付き合ったりと、それだけでキャラクターとしては充分仕事しているんですが、対戦での顧問キャラなら特有の「解説役」ポジションに立ちがちと言いますか、彼女も決してそこをやらないわけじゃないんですが、それにプラスして必ず「対戦中の生徒への愛がないと出てこないようなひと言やエピソード」がぽろっと出てくるんですね。そのひと言が挟まるだけで、彼女たちの対戦の物語にひとつ重みが乗ると言いますか。実はこの作品、1期の描写に関して言えば、ほとんど部活動として練習する風景は出てこないんです。

『はじめの一歩』とかはむしろ対戦の前の描写で対戦への重みや伏線を多く張っていく感じになるのですが、この作品はいわゆるそんな修行パート的な部分を端折って、柔道部員が集まるエピソードと大会の話にほぼ全振りしてます。

 こういった感じだと抜けがちなキャラクターへの思い入れ、対戦相手の強さや部員たちの成長の姿が夏目先生の言葉で象られていきます。おかげでお話のテンポを落とすことなく、なんならシーンのテンポすら落とさずに対戦の重みを作り上げてしまう、そして、対戦後の特に敗戦後の人物に語りかける言葉の優しさが好きです。大体がもう生徒愛に溢れて、そして勇気を与える感じでカッコ良すぎるので、是非このあたりは作品を観られてください。

 また、対戦相手のみんな魅力的なんすわ。マジでほぼ一期一会かよお前らというくらいに、キャラクター性と彼女たち自身に乗るストーリーが見える選手たち。天音さんが所属する同じ地区の強豪、霞ヶ丘の選手には特別の扱いがある雰囲気なので、以後も描かれていくのですが、まあこの辺りもまた、これから触れられる方には観て欲しいところです。

 最初は青葉西の選手を応援していたのに、途中から「どちらも勝て! 3回戦だけど両者優勝!」みたいな気持ちになる対戦相手も応援したくなるスポーツアニメ作品です。

 柔道の対戦にはアニメーションでしか味わえないタイプのハッタリの利いた臨場感にスピード感や迫力、それに爽やかな感動があって、些細な描写であるのですが、楽しく女子をしている姿が時に眩しく見えたりして、そんな彼女たちの姿をずっと観ていたくなります。マジで最新話の更新をかぶりついて観ていたし、すでに相当回数周回しております。そんな個人的にも勇気を与えられる大切なアニメになりました。

「欠点? はあ? 2期の報がまだないこと以外ある?」

 加点法10000点くらいつけたいアニメでした。


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1位. オーバーテイク!(TROYCA)

 

 個人的に今年のダークホース中のダークホースでした。そして同時に、『もういっぽん!』がグランプリで、『オーバーテイク!』が最優秀作品賞みたいなW優勝みたいな感じでも良いかなと考えていました。それだけ自分のなかで、どちらも大切な作品になりました。差は誤差程度と捉えてくださいませ。

 さて、この作品はF1を30年間くらい観てきたモータースポーツ好きの自分でも、この作品に出会う前は知らなかった「F4」という下位カテゴリーのモータースポーツが扱われるオリジナルアニメ作品になります。

 F4とは簡単に言えば、現在日本で行われているフォーミュラレースのなかでも最も参加ハードルの低い階級になります。

 それゆえにここで育成を受けて、上位であったり別のカテゴリーのレーシングドライバーとして、受け入れてもらうための若手ドライバーの登竜門のような存在でもあり、同時にお金持ちの道楽のようなシニアのエンジョイ勢も参入してくるカテゴリー。作中では20チーム36台が参加、F1が現在10チーム20台であることを考えると倍近く参戦する闇鍋状態です。

 特徴は、車体そのものの性能差をほとんど与えない厳しい規則。細かいダメージ状態さえ同じならほぼ同じような車に乗っていると言ってもいい、モタスポ好きのひとには「ワンメイクのイコールコンディション」縛りです。

 本作ではその縛りによって、レーサー同士が実力で競いやすいカテゴリーとして扱われます。

 ただ、この作品をいわゆるスポーツものという枠に入れると、少しお話の解釈にズレが出やすくなります。本作はモータースポーツを描く中心のひとつに入れた「ヒューマンドラマ」と思ってください。そうするだけで作品の評価軸は大きく変わります。

 アナウンスは足りてない気もしましたが、公式的にも「人間ドラマが中心の物語」であるとあおきえい監督が制作発表会でも述べられてました。

 

https://natalie.mu/comic/news/509705

 

 内容ですが、フォトグラファーである主人公「眞賀孝哉」が仕事の関係上、偶然富士スピードウェイでのSUPER GTのレースを取材することとなり、その経緯からF4というレースと、そこに参加する「小牧モータース」という弱小チーム、そのエースドライバーである高校生「浅雛悠」に出会い、その一見したクールさからは想像もつかなかった、予選順位が低くてもレースでぐいぐい相手ドライバーをオーバーテイク(追い抜き)していく、ひたむきなレースへの姿勢に感銘を受けて、孝哉がずっとできなかった「人物の撮影」を久しぶりに行えるようになるダブル主人公のお話。

 という導入部のストーリーです。まあ、手堅い脚本ながらかなり地味に感じられると思います。しかしながら、その物語が進むにつれて、とても丁寧かつ深く脚本が練られていることに驚くかと思います。

 1話のあのシーンが、最終話ではここに活かされる、2話のあのシーンが最終話では……などなど、中盤にもしっかりとした見どころはあるものの、その集約されたものが一気に放出するのが最終話です。

 

“よどんだ水がたまっている
それが一気に流されていくのが好きだった
決壊し、解放され、走り出す
よどみの中で蓄えた力が爆発して
すべてが動き出す——“

『宇宙よりも遠い場所』より

 

 あの作品と直接比較するわけじゃありませんが、作品の細かい描写に触れているほど、思い入れるほどに一気に感情が流れ出す、あの最終話の構成は、よりもいの12話、13話のような感覚を覚えました。

 ここに対する当て書きで、他のエピソードを逆算的に構成していったんじゃないかというくらいには完成されてます。

『オーバーテイク!』最終話のエンドロール中はさわやかな涙を流しながら拍手してました。誇張ではなく。

 ただ、難しいのがこの作品は良くも悪くも演出に欲がないです。ほんとうに「あの頃の伏線だぜ、回想ドーン、泣こうぜ!」みたいな、あっても良いアピール感のある演出がほとんどありません。

 それを欲のない美徳のある作品ととるか、物足りないととるか、そのあたりは人それぞれになってくると思います。この作品に「繊細な人間ドラマ」という認識をいかに早く持てるかが大事で、そういった導入の仕方としては、デモムービーなど事前のアピールも含めて周知が足りない、宣伝などの戦略に少し迷いがあったのかな、なんてことを思います。

 とは言え、作品そのものは素晴らしいです。正直豊作だなと思った今年のトップに推すほどだと感じています。

 

 “偉大なる脚本家、橋本忍の著書『複眼の映像』に、以下のような記述がある。「(略)脚本にとり最も重要なのは、一にテーマ、二にストーリー、三に登場人物(略)」”

ふでやすかずゆき『ヤマノススメ公式設定資料集』スタッフコメントより

 

 この後、ふでやす先生の「優先順位の一、二、三はさておき」で登場人物を描く重要性について書かれてゆくんですが、この三つがおおよそ等価に、しかも大事にして描かれたのが本作であると思います。

 これもやっぱりネタバレはある程度省いていきますが、テーマ性に関してはタイトルでもある「オーバーテイク!」という言葉がとても大きな意味を持つものであり、そこに向けての登場人物みんなの物語があります。

 主な登場人物はみんな作品のなかで、ぶつかり合いながらも成長していきます。当たり前の人間ドラマの構成ではありますが、そのひとつひとつの考え方の変化やステップアップに一段飛ばすような雑さがなく、物語のなかで自然と身につけていって、お互いにシナジーを与え合う。

 話を観進めるほどにこの作品への理解が進んでいきますが、主要人物である浅雛悠と眞賀孝哉の抱えた心の「負」の部分は、とても重いものとしてあります。アニメの全12話で乗り越えるにはなかなか難しいと思えるほどのものですが、それをキャラクター同士で乗り越えていく感覚が素晴らしい。

 それこそとても難しいハンドル捌きの脚本です。扱うテーマ柄、避けては通れない難しいお話もしっかりと誠実に描き切ったがゆえの感動が得られます。

 重いテーマを持つヒューマンドラマのカタルシスを描いた脚本として、今後教科書レベルのものと自分は扱っていくんじゃないかと思えるほどです。

 しかし、登場人物もみんな魅力的でしたね。

 主な視点人物でもある、眞賀孝哉。彼は勢いで生きているような、一度レースを観ただけで悠を応援するためジェットコースターみたいに動いて、悠を振り回しながらあらゆる行動で彼を支えていこう、進ませていこうとする主人公。彼自身、ひとに手を差し伸べることに関して、実は大きなトラウマを持つ人間であり、また振り回される浅雛悠も、全く同じではないものの差し伸べられた手や「応援すること」「応援されること」に強い拒絶意識を持つ人間です。

 ただ、そこが人間としての悪い部分に映るのではなく、孝哉の場合は人間として持つ弱さのひとつ、一見楽しいだけで生きてそうな彼に乗る強い重みのような感覚であり、悠のほうはどちらかというと青臭いツンデレのような突き放す描写としてある程度、キャラクターを受け取りやすいようにチューンされています。

 こういった人物の見せ方は他のドライバーである春永早月や徳丸俊軌にもしっかりとなされていて、変なキャラクターのように見えるから印象に残るけれども、その裏にはきちんと自身の行動指針やそう動かざるを得なかった生き方の軸のようなものが存在します。

 それゆえに、彼らのそれが物語を通して変わっていき成長していくその姿、過去の自分を「オーバーテイク!(乗り越える)」していくのがひとつ大きなテーマです。

 だから、1話の孝哉の応援シーンと最終話の孝哉の応援シーンが、全く互いにとって違った意味を持つと作品自体を通して伝わるものすごく丁寧なつくりです。

 ただ、これはあまり口で語られる部分ではありません。最小限のアピールしかない、「読むアニメ」になっています。素晴らしいストーリーの一方で視聴者側として全部読み取る気がなかったら、口当たりとして少し軽めの人間ドラマ混じりのスポーツ作品、くらいの印象にしかならないかも知れません。

 だからこそ力いっぱいこの作品に触れて欲しいわけです。それに応えるだけの面白さ、懐の深さを備えていると思います。印象を与えるシーンには、そのシーンの構図ひとつから意味を持つという点で、『葬送のフリーレン』のように味わいのある深みの寓意性が活きた作品です。

 作品のテーマ上、リアルでありながら実写でやり切るのは難しい、アニメならではの誠実な素晴らしい人間ドラマが味わえます。ほんとうに脚本に関して言えばここ数年レベルでもトップクラスと呼べるはずです。

 

 物語についてはひとまずこの程度にして(なあ、この時点で感想長くないか? (I)「愛ですよナナチ」)、次はビジュアル面です。

 悠くんめっきゃわ!

 黒髪で青い瞳のクリっとした目が最高。そしてレーシングスーツのインナー姿なんかの、研ぎ澄まされたダウンフォースの効いた(効いてない)少年ボディライン最高です。かわいい女子大好きな自分ですが、こういうかわいい男子もキャラクターデザインとしてとても好きです。さすが、中性的な少年少女を描かせたら右に出るひとのいない漫画家、志村貴子さん(『青い花』は自分のバイブルみたいな一作です)によるキャラクターデザイン。特に悠はその志村さんイズムのようなものを受け継いでます。

 男性性の魅力であるある種の肉付きのなさ、少年ながらも小顔で凛々しく、フィジカルゆえのシュッとした立ち姿はモデル体型のようですね。けれども、あどけなさを持つぱっちりした目鼻などの顔立ちや表情にも、男性的な魅力と少女的な魅力が混在しています。作中でうっかりエモいとの言い間違えで「エロい」と表現されるその泣き顔は、実際エロいと思えます。

えろい

 17歳である彼を中心とした、悠とほとんど兄弟のように育った小牧錮太郎や早月に、珍しい女の子キャラの亜梨子ちゃんなど少年組もポップなデザインで作品の中核をなしますが、かといって大人を描ききれないわけでないのがまたこの作品の魅力。

 孝哉の人生経験や性格が絶妙に容姿や表情にも現れるこの作品。36歳、悠たちにとっては兄貴というより親父にも近いようなちょっと若さも混じるおじさんな彼の雰囲気もきっちり、ストーリーを経るごとに味わいや深みのようなものを帯びてきます。もっと上の年齢層である、小牧モータースやベルソリーゾのチームオーナーの小牧太や笑生さんまで、表情は細かく、明確には出てこないながらも恐らく孝哉よりもいくつか高い年齢を表現しています。

 互いに違う形であれ、「グラデーションのある面白い人生」を送ってきたであろうことが伝わる最終話など、ふたり直接の会話なんかも負けず劣らずに渋いキャラクター立ちをしています。

 エモいのは年齢層が上のキャラクター陣かも知れません。孝哉の元結婚相手である、冴子ちゃんと孝哉の関係も「復縁はよ」というような絶妙な距離感の掛け合いを見せますし。

 孝哉とさえちゃん、悠とコタくん、メインカプ(メインカプ言うな)孝哉と悠の関係性など、ちょっとした湿り気のある描写が、へたなラブコメより細やかな人間同士の好意の動きを見せるので、そういった部分が好きなかたにもたまらない作品となっていますぞ。

 少し話はズレましたが、この作品は見せ場であるレースシーンのCGアニメーションから、日常的なシーンの手描きシーンまで無茶苦茶に高い作画レベルを誇ります。2話の御殿場地元小口スポンサー探しの商店巡りなんかも、ロケハンした実店舗の実写かと見紛うような背景のなかで、キャラクターが浮き立つことなく描かれる細やかな作画には本気で驚かされます。

ほんと背景スタッフさんに敬礼

 マジで脚本が弱ければむしろ作画アニメとして逆に注目を集めたんじゃないかというレベル。背景に映り込んだ雑草の描写の細やかさにすら、気にしようと思えば目に留まります。

 ものすごいカロリーをかけ続けた背景描写やそのに立つキャラクターまで含めた構図の素晴らしさなど、アニメーションにはほんとうに全く文句のつけどころがありません。強いて言えば、スタッフさんにはきちんと良いお給料とお休みを与えてもろて欲しいとかそんなんです。

 そのなかでもまた、手描きのシーンとは別種の素晴らしさを見せるのがレースシーン。やはりスポーツを扱うアニメの華といえば、そういう競技シーンの見せ方になると思いますが、この作品の凄いところとして、作中に登場するサーキットはフルにCGでモデリングをされてます。しかもその描写も丁寧で、恐らく実写比較などをしてもほとんど差が読み取れないほどなんじゃないでしょうか。2017年にはサーキットへの最初のロケハンが行われたという制作規模の大きかったこの企画。さらっと言ってますが、異常なお話。縁石の段差まで描ききるような細やかさに、コーナー前のブレーキ痕にいたるまで手を抜かない丁寧さ。

路面視点正面アップというカメラワーク

 自分は必ずしも画面情報量が上がるほど良いアニメーションとしているわけではないです。特に『もういっぽん!』なんかはそこを取捨選択した素晴らしい例だったと思いますが、『オーバーテイク!』の場合、こういった微に入り細を穿つような描写が、作品の持つリアリティラインを担保しているというのは間違いなく、そして物語の強度に寄与する関係性になっていると考えます。

 物語のなかに現実の世界をつくり込む必要性があった、新海誠監督作品のようなものなんじゃないでしょうか。

 さて、この作品のレースシーンは物語をシーンに載せて、登場人物の抱えた背景に意味を生み出し、変化させていくというスポーツものらしい部分を持ちながら、実写で出せないハッタリのようなカメラワークによる、映像そのものの迫力や快楽性があります。

 各レースに於いて、絶対にその登場意図があり、違った形で映像興奮度を持つ、そんな一戦一戦の描写です。晴れの富士スピードウェイ、雨の鈴鹿サーキット、全てに登場人物の想いの居場所が絡み合います。

 雨のサーキットはほんとうにヤバい。F1を観ていると年間数回程度は出会い、ときにはその状況から引き起こされるクラッシュや、ほんとうの衝撃映像みたいな大事故まで見てしまうことがあります。それが起こり得る恐ろしさのようなものが、きちんと表現された描写にはもはや楽しんで観られなかったですね。レーサーたちへの「無事で帰ってこい」に切り替わる。

 ただまあ、これはフィクションだから攻められる部分を非常によく突きながら制作された美点でもあります。ノンフィクションの実写だと辛くて観てられなかったでしょうから。

 こういった映像の与える重みや恐ろしささえ、作品としてはカタルシスを与えるものになっています。

 テーマ上、絶対に避けては通れない重要な回がひとつあるのですが、これも丁寧に表現されます。キツいエピソードではありますが、そこにもまた「主人公たち」、「そこに生きる人々」、「テーマ」、「物語上の意図」があります。

 音響面も力が入ってます。実車の音やビジュアルを再現するためにシャーシ(車体の全体)やそこに載せるエンジンやタイヤに至るまで、きちんと協力をもらい、F4のレースの音を再現しています。同じく協力をもらっている元F1パイロットでもありF4の創設から競技を支える人物、服部直貴氏も太鼓判を押すそんなシーンをぜひ体感してください。

 最終話のBGM無しの1分10秒に耐えられる映像とレース音の生々しさは素晴らしいです。

 OPテーマやEDには超有名ミュージシャンのタイアップが、というわけではありませんが、それゆえに非常に作品解像度の高い歌詞で歌われます。

 OPテーマは特に全ての歌詞に意味が出ます。詳細は省きますが、全話視聴後にフルコーラスを聴くと、その意味にゾクっときますしそもそも爽やかな口当たりの良い青春チックなポップスが気持ちいいです。

 全ての部分に細部の造り込みを行ったこの作品、フォーミュラカーともいうほど、膨大な取捨選択を行いながら制作されたであろう、そして驚くほど作品協力企業や細かな実在の商店たちなどに支えられたこの作品。そのものが作中の小牧モータースのマシンのように感じられてきます。

 ラップを重ねるごとに意味を読み取れていく脚本はほんとうに最高です。

 多くのひとに観て欲しいし、できれば周回視聴をして作品のテーマや描写意図を細かく読み切って欲しい、そんな一作です。重みはありますが、最終話はそれがカタルシスとなる、人間とその「オーバーテイク」の物語を描く、素晴らしいスポーツエンターテイメントドラマです。

 好きなセリフは「なんでも勢いよくガーッていったら、ゴーッてなって、いちばんになれるって!」「ガーッといって、グイーン!」「今日のベルソリーゾは強いよ〜」です。

 あと最終話のアニメでしか作り得ないワンカットシーンは昨年でもトップ3のアニメーションとして推したい、アニメならではの最高に興奮度の高いハッタリです、こちらもぜひ本編で。

「オーバーテイク!」というテーマを受け止めた自分自身にとって、生きる指針とでもなるような非常に大切な一作となりました。できればこの作品の持つものが多くの方に届くことを心から願っています。

 そんな、2023年、ベストアニメです。

2023年の個人的アニメ、ポディウムの頂点に

komaki-motors.com

 

 

 補足として、実は『BanG Dream It’s MyGO!!!!!』や『スキップとローファー』、『好きな子がめがねを忘れた』など、選外にもほぼランキング入りしても良い、MyGOあたりはトップ5に近い衝撃度の高い作品でもありましたが、作品をきちんと読み取れる視聴回数ではなく、ランキングからは外しております。

 瞬間的な面白さはこのあたりもランキングに入っていておかしくはありません。もし再視聴して気持ちが入れ替わったらランキング内容にも多少の変動は加えるかもしれませんが、ほぼこのランキングベスト5は揺るがないと思って良いです。

 豊作だった今年、特に非常に予算の高そうなスタジオバインド系の『お兄ちゃんはおしまい!』『無職転生』第2シーズン、『薬屋のひとりごと』など、ランキング外にも様々な作品がありましたが、特にベスト5はここ数年のなかでも推していける素晴らしい作品だったかと。

 お時間があったら、自分が挙げたベスト10以外の作品にも触れてもらえたら。

 2023年はほんとうにアニメに集中する上で幸せな一年だったと思います。

 

 

 さて、2023年放映作品とはまた別に『月がきれい』、『四月は君の嘘』、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』シリーズ、『響け! ユーフォニアム』シリーズ、『ARIA』シリーズ、『フルーツバスケット』リメイク完全版などなど、様々な過去の作品を新たに観ておりましたが、その中でも、個人的に人生へ影響を与えるレベルに残った作品を、今年の裏ベスト作品として、挙げようと思います。

 

・ルゥシイさんの2023年裏ベスト作品(過去作品視聴ベスト)

 

『たまゆら』シリーズ(TYOアニメーションズ、ハルフィルムメーカー)

 大傑作でした。初めて聖地巡礼をしたいと思って実際最後まで視聴した2023年に勢いで計画立てて、巡礼のため竹原まで二泊三日で赴きました。この話はいずれどこかで別の記事にでもするとは思いますが、体験として素晴らしく、その後のこの作品の視聴感覚を変えるもの、舞台がはっきりしている作品の見方もかなり変わりました。

 ただ、この作品なんですが、恐らく『けいおん!』シリーズを観た直後あたりにすぐ触れているんですよね。

『カレイドスター』が好きだったので、すでに知っていた佐藤順一監督、『けいおん!』にハマっていたこともあって当時記憶に新しい脚本の吉田玲子さんによるコンビネーションで、女性キャラクターたちの癒されるような感動的な話が描かれるのだろう、みたいな期待感が、たぶんあったはずです。

 ただ、昨年観始めたときに、OVAまでの記憶はあったものの、テレビシリーズであるhitotoseと2期であるもあぐれっしぶの記憶はありませんでした。要はその当時、自分にとって観たい作品にはなってなかったと思います。

 それが年齢的なものか人生経験的なものかは分かりません。とにかく期待に対する違和感が大きかったことだけはよく覚えています。

 初見からは10年以上の人生を経て、まあそれなりに色んな経験は致しました。仕事環境も全く違い、それなりに趣味の変化や様々な人間との出会いや離別なども経験しています。

 そんななかで再び観る作品は全く違う色合いを帯びてくることとなります。

 ひとつ作品を観るうえで欠かせないこととして、ごく軽くではありますが写真の趣味を持った時期があること、漫画などから学んだ技術がほとんどではありましたが、デジタル一眼を持ち歩いて色んな観光地なんかを撮り歩いたりして来ましたし、カメラを性能の兼ね合いで手放して以降も、スマートフォンで撮る写真には未だに多少の凝り性みたいなものが残っています。

 また決定的なのは作中のぽってと同じ父親との離別を経ており、その時ですら自分はまだ完全には立ち直りきれてなかったですし、完全に全てが忘れられたりすることなどないのだと思います。

「ぽっては俺だ」と思うほど傲慢な気持ちはありませんし、彼女が物語のスタート地点で手に入れている芯の強さに、筆者は全く追いついてないと考えます。

 その上で、やはり作中の色んな要素が今では自分にとって、余所事ではないように映るわけです。

 同じものでも見る目が変わるととても感じ方が変わると、前向きに感じることができました。それは恐らく自分にとって最も作品へのピントが合うタイミングで、この作品に触れることができた幸運のようなものです。

 さて、作品そのものについては最高の一作でした。沢渡楓というひとりの少女の、父の喪失から立ち上がる成長を(あえて物語の始まりとしてしっかり描かずに)経て、再生と巣立ちその全てをシリーズ全てで紡ぎあげられた素晴らしい作品。

 ぽって(沢渡楓)が歩き出すため再び手にした父のカメラと竹原という土地での出会いで始まった、彼女の高校生活、かつて父と暮らした、父の暮らした土地であるがゆえに、さまざまな場所へ訪れるたび、父親と暮らした日々の温かい記憶や優しい記憶に包まれていた、そのことが思い出爆弾のようにぽってに降りかかり、彼女は必ずしもそれを悲しいことと受け止めずに前へと進んでゆく勇気に変えてゆく、そして彼女とその友人たちとの再会や出会いから描かれる、迷いとあぐれっしぶな前進という成長の記録。父から受け継いだローライ35Sがその息を引き取るまで、彼女はたくさんの出会いを思い出をフィルムに収め、写真にしてきました。

「みんなで見た朝日山からの景色」「『友だち』みんなで観た黒滝山」「憧憬の路を楽しむ竹原のひとびと」「バンブージョイハイランドでの生誕記念の樹」「ちひろちゃんと観た花火」や「かなえ先輩が素直な泣き顔を見せた初日の出の日」、そこには笑顔も泣き顔も成功も失敗もあらゆるものが残されていて、大事なものはそのすべてがぽってにとって必要で、出会いや想いの全てがたからものであることです。

 彼女のこれまでの写真はすべて、父の喪失もひとつの素敵なたからものにつなげてきた、そんな沢渡楓というひとりの少女が、新しい日々に向かっていくための、学校から贈られるものとは違う、想い出のアルバムのなかに卒業写真として仕舞われます。

 親元から離れる旅立ちを寂しさでなく笑顔で迎えられる、そんな彼女の成長を映したこの作品は素晴らしかったです。始まりを飾るOVAのオープニングテーマである坂本真綾の『やさしさに包まれたなら』、テレビシリーズ1期の『おかえりなさい』を始めとして、毎話のように登場しては癒やされるメインテーマやあらゆる劇伴に作品の肝心な箇所をしっかりと演出してくれる数々の挿入歌なども素晴らしく、特に劇場上映のOVAシリーズである『たまゆら -卒業写真-』その最終章である『朝 -あした-』の最後を飾るテーマに、同じく坂本真綾がカバーする荒井由美『卒業写真』を持ってきた心憎さはベタながら最高に利いていました。このアニメを経て「卒業写真」という曲の歌詞に対する解釈もかなり変わりました。

 最初は長距離恋愛に恋人との別れを経た彼女が、再び出会う元恋人にあてた感傷の歌のように感じていましたが、作品視聴後はどこか、作中の登場人物にあてたような歌詞に見えてくるのですが、当然ながらこの歌のような切ない未来自体はこの作品には登場しません。もしかしたら、ぽっての母である沢渡珠恵さんから父の和馬さんへかも知れませんし、ぽってとぽって部の誰かかも知れません。麻音たんみたいな実家の太い女は知らぬ。

 竹原を始めとして尾道や大久野島など瀬戸内海の実在するあらゆる景色を最高に美しく切り取った背景美術も素晴らしかったですね。特に1期2期、それに卒業写真でも登場した、竹原で実際に行われる「憧憬の路」という町並み保存地区という時代の息吹が残る古い景色を優しく彩る竹あかりの祭り。この日を扱った回は物語の内容そのものもぽってたちのターニングポイントになり、それでいながらとても美しいアニメーションをしており、背景やそこに映り込む人物の竹あかりによる影の描き込みがとても静かな良い映像表現です。彼女たちの表情や動きの細やかな描き分けなど、元々非常に背景描写に凝った作品ではございますが、この部分に関してはほとんど芸術レベルというか、なにかしらのアニメ大賞に能う映像美であると思います。

 ぽってとともに歩み成長していきあらゆる思い出を彼女と共に刻んでいくかおちゃんやのりえちゃん、麻音ちゃんのぽって部員、ぽってと偶然出会い写真部として入部し、ぽってとともに成長しながら終始かわいい存在であり続けたかなえ先輩(かわいい)、それからぽってのお母さん(珠恵さん)にお婆ちゃん、そして志保美さんやさよみお姉ちゃんたち、そんなあらゆるぽっての出会いが彼女を支えてくれたことも素晴らしくて、特に大原さやかさんの演じたさよみお姉ちゃんや、緒方恵美さんの演じたぽってのお母さんは、主役のぽってと並び、声優さんの熱演に支えられ素晴らしかったです。あとは語尾が「なので」でおなじみの和馬さん役の熱演(記憶を混濁させる魔法だよ)含めたパパ以外のパパである、日の丸写真館のマエストロ役中田譲治さんや2期から登場する夏目望パパ役の緑川光さんなども作品を支えてましたね。

 作品を支えるあらゆる全てに恵まれた傑作であり、どんな失敗やつらい経験を経ても、潮目が来たときには前に進めるようになること、その気持ちや様々な準備や努力を行っていくことの大事さを伝えてくれた、ひとの人生を映す鏡のような、いやむしろ、そのひとつの輝きを持った瞬間を捉える写真のような、そんな人生を支えてくれるような一作になりました。

 さいかわはかなえ先輩だよ! かわいい以外に特になにもない女の子が大好きや!(好きなキャラのこといきなり解像度浅くなるのやめて、あと後味残して

好きピしゅぎてめっかわのきゃわ

tamayura.info

 

 

・ルゥシイさんの2023年ベストアニメ映画ベスト3

 さて、最後の項目ですね。いやあ長いようで短かった。(クソ長い、自害しろ)(うぃ)

 昨年は映画を、というかアニメ映画ばかりですが、15本で4DXなどの別環境で観たい作品などを含め作品につき複数回行き、合計は20回ほど劇場に赴きました。

 アニメファンとしてはもっと行けたやろ感もありますが、まあ一度にグッズ購入でアホ出費することを考えると、この程度にしておかなきゃ身を滅ぼしますし、彼。

 さて、前回の上半期記事でアニメ映画にも軽く触れてはいましたが、どんなランキングになることやら。

 

 

3位. 劇場版SPY×FAMILY CODE:White(WIT STUDIO × CloverWorks)

 

 アーニャアイドルだからうんこしない。

 ここ日本にあるアーニャ学会ではそんな議論がなされていた。SPY×FAMILYを原作からきっちり読み解いた有志や、アニメをなんとなく観ていてただよだれ垂らしながら「あーにゃかわいい」とIQ.0.00002くらいの生き物のように言っていた筆者までを巻き込み、全国の学会は荒れた。それは国内に訪れる東西冷戦の引き金ともなり——

 

 ませんでした。まあ、アーニャそうかあ、うんこするよな。アーニャだもんな、割とすげえ分かる。

 さて、昨年末の大トリを飾ったこの一作。ファミリー層向けとはいってもちょっぴりアホみたいな内容です。トム・クルーズが金出してつくるトム映画みたいな、はりうっど版SPY×FAMILY。まあこういうのが観たかった、というよりこういうのは絶対やるだろうなの期待にそのまま応えた、アメリカンなぶっ飛びかたをしたエンターテイメント作品でした。

 おでけけのアーニャかわいい!!

 ちちがかっこいい!!

 ははバトルがエグい!!

 あと、よそのおうちのヒトを噛む犬。

 フォージャー家4本柱が綺麗に揃ってましたね。

 たぶんこの作品、あくまでも劇場版オリジナルストーリーという側面もあるため、Season2を観てきたらより深く分かるみたいなそんな要素はそれほどないですし、ストーリーも特別連動しているわけではありません。主役であるフォージャー家のお話と、テレビシリーズで特に描かれていないであろう部分だけで、掘り下げも少なめに作らねばなりません。

 というわけで、国家保安局のユーリくんとかは今回存在ナーフでおなしゃす、というくらいほとんど出番はありませんでしたが、

 いやほんとマジで、テレビシリーズと比較すると良いところ上げるの少し難しいんですがこれ、クリスマスから正月にかけて観る映画としては満点なんですよね。次期柄とかそんなに大事かとか思われたりもするかもですが、正直年末のあれやこれや忙しやがある中で家族サービスしたいけど、いちいちアウトドアわいわいとかやってられない寒さの時期にはとてもあたたまるお話でもあり、「ええいパパ、娘へのクリスマスプレゼントここで買っちゃうぞ(場合によりぱぱじしんもふくむ)」みたいなことを、売りつける気満々のはちゃめちゃな数取り揃えたグッズが構えて待つ映画です。

 中身がない? それで結構なんですわ。なんとなく子どもと行って、「いやー! 楽しかったなあ!」「うん! このシーンが面白かった!」と子どもと笑い合える内容で結構。

 とは言いますが、このSPY×FAMILYの勝手知ったるテレビシリーズ助監督とそのまま並行で劇場版もやってくれた大河内一楼さんによる脚本でなんの仕掛けもなくただの家族向け娯楽だけに簡単に収まるわけではありません。

 周回して観ると、無駄に感じたトイレの神様のシーンが、地味に毒ガスを抜く奇跡に繋がったり、アーニャが散々我慢してきた苦労を、実は神様が見ていて助けたシーンにもなったりします。

 そういうのにもう少し深い理由付けが欲しい方はそれ向けの作品まだいっぱいありますし、もうちょっとグラデーションが深めの色合いのSPY×FAMILY脚本は、同じような尺でもSeason2のプリンセス・ローレライ号篇でやり倒してはいたので、ここはある程度色合いを変えた作品づくりが退屈させずに決めてくれたと感じました。

 もうマクガフィンが笑えるます。別にたぶん要らないチョコに包んだマイクロフィルム、それをアーニャが食べてしまったことにより、追われて捕らわれるお姫様属性のつくアーニャ。その代わりで済まんがきみはうんこ我慢して顔芸をいっぱいやってきてくれってな具合。

 とはいえ、作品としての軸をきちんと離れることなく、映画の尺でのエンターテイメントへ繋げる手際にプロの技を感じました。

 ロイドがまだオペレーション・ストリクスにこだわる気持ちの遷移や、ヨルさんが前向きに家族たろうと気持ちを前に進めていく覚悟の決まった思いの表れ、アーニャの持っている要らん子コンプレックスのようなものに対する、みんなのために一歩を踏み出す行動、終末に仮族全員で家族サービスをするお死ごとぶりは良かったです。

 それが各々の持てる力を活かし支え合う、というところまで含めて、実際ジャンプ漫画らしさもありました。

 映像美については、クールアニメのほうの説明で大体話していた通りかと思いますが、その上で北国「フリジス」の冬景色や、そこに暮らすひとびとのあったかさと、邪魔にならない程度に入り混じる夜には栄えていない世相の暗さなども含めて、実はとても深く描かれていたのではないかと思います。

 脚本に百点満点だ!

 というわけではないのですが、こだわり抜かれた映像のなか、激しく闘い時に面白く動き回ったり、某有名スパイ映画シーンのオマージュがまんま入ってみたりの、ベタなパスティーシュ感も頭を使わずに観ることができて楽しかったです。

 作中に登場するような、お祭り騒ぎのこの作品。本編ほどえぐみを出しにこなかったのはむしろ気持ちを楽にしてくれて良かったという気持ちになります。

 なにも残さず楽しさだけいただいて、あとアーニャグッズに二万円(買うものは初回上映前にほぼ絞っておいたので時間はかけませんでした)出して、後続の家族さんに見られながら、自業自得のちょい恥ずかしい思いはしましたが、それもひとつの体験だという思いになりながら、「たのしかったなー」と、隣にいるピンク髪の娘(非実在)に対して言いながら笑って帰る年末の良い1日が味わえました。

 好きなシーンは実際かなりテクニカルな冒頭の5分でわかるSPY×FAMILYみたいな紹介シーンでした。あれだけで大体、作品構造察することのできるドミノ構造はほんとうに巧かったです。

 あとヒゲダンによるテーマソング『SOULSOUP』めっちゃ名曲でしたね。


 

 spy-family.net

 

 

2位. 窓ぎわのトットちゃん(シンエイ動画)



 監督がどれほどの想いと筆への力を込めて作った作品かは分かりませんが、ただひたすらに真っ直ぐで衒いのない傑作でした。ノンフィクションの文筆作品による映画化で、これほどイマジネーションとリアリティの両方を表現しきったアニメーション作品というのは近年そう多くなかったんじゃないでしょうか?

 原作者さんについては歳を召されてからになりますがテレビでも親しんできましたし、どういう人物かテレビタレントとしては存じ上げていますが、近年の情報だと「かまいたち(を含む人気芸人を数々)エグいほど滑らせたお茶目なひと」という認識です。

 それはさておき、作品の話に戻ります。

 この作品に関しては、序盤から強い思い入れのようなものが入ってしまったため、お話そのものに対する客観的な評価というのがどうしても難しいです。

 自分語り込みで書き散らかすような形式にはなるかと思いますがどうかご容赦ください。

 この作品に登場する、主人公のトットちゃんが通う『トモエ学園』ですが、現在で言う特別支援学校のようなもの、あるいはそこに通うような生徒を支援する教育体制をよく確立した学校だったのだろうと思われます。この辺りについては、作品内で言明されてはいないので、断定はしていきません。

 前の学校ではクラスのみんなのなかでは人気のあるような女の子だったんじゃないかと思われますが、いかんせん落ち着きがなくて周りを巻き込んで、授業を無茶苦茶にしてしまう彼女。トットちゃんは前の学校の教育方針との折り合いがつけられずに、『トモエ学園』に転入してきます。

 そこでの小林校長との面談シーン、これがほんとうに素晴らしく印象に残ります。「話したいことをいくらでも話して良い」とする校長に対して、トットちゃんはなんの衒いもなく、気の向くままに話の文脈もすっ飛ばして、誰になにを理解させようとするでもない言葉を、でもとても楽しそうに話続けます。「列車の改札のおじさんの話」や「自分の飼ってる家族の犬の話」それからあれこれ、とりとめもなく。

 彼女にとってそれは初めての体験だったかも知れないし、自分というものを表現するきっかけだったのかも知れません。彼女がどういう女の子であったのかは、ここまでで理解できるのだと思います。

 ちょっぴりずれていて、でもとても「楽しみ」をひとと分け合いたくて、そんなことを考えずにできる「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」、校長は彼女の魅力をきちんと無駄な言葉なしにそう表現します。

 楽しそうな話のなかに、一瞬だけ彼女が滲ませた不安。「どうしてみんな、私のことを困った子って言うの?」前の学校に受け入れられなかった記憶が蘇り、そのを口にした彼女にとって、それはきっと救いだったのだと思います。ようやくそのままの自分を受け入れられたような。

 たぶん筆者はもうこの時点でかなり、思い入れが強く入っていたと思います。はっきりと診断がおりたり病識があったわけではありませんが、落ち着きがなくて周りと馴染めず、教師ともトラブルを起こしながら、それが原因かはさておき、街中から田舎の学校へと転校することになった過去があります。

 素の自分が許される体験って、結果から言えば転校してから都合よく全部うまくいった感覚はなく、子どもながらの我慢は挟みながら友だち関係を築いていく日々だったと思います。趣味がとてもよく合ったり、空気感がお互いに「合ってる」と思えた数人を除いて、自分自身が転校して以降で「友だち」と呼べる人間はいなかったように思います。

 映画のプロモーション映像でも見た部分だったので、ほんの少し軽く受け止められはしましたが、それでも作品のなかで描かれるととてもずっしりとした質量の「子ども」のお話が乗る、とても共感性の強いシーンになりました。たぶん泣いていたなあと思います。この作品のある意味では見せ場でしょうが、作中だとほんとうにグッとひとの心を素手で突き破りにきたような思いですね。

 そういう部分は少し演出的な感動だとも思いましたが、そのあとは、彼女たちがそこに生きて過ごしている、些細な描写のひとつで涙がこぼれるようになっていました。ほんとうに何気ないエピソード。寺のなかで井戸を友だちとのぞいたり、トットちゃんが列車の一両をまるまる校舎にしたそのなかで、感動してイマジネーションを爆発させたり。

 その全てがアニメーションとして生きています。人間をキャラクターとして、フィクション性を強く描くことなく、真っ向から嘘のない、デッサンにも似たひとのそのままの表情で描かれていきます。学校でトットちゃんの周りではしゃいでいる他の生徒たちも、特に深く物語が掘り下げられていくわけではないのですが、映像のなかに命を吹き込まれて、やはり彼らも人物として生きているのです。これがほんとうに他のアニメ作品ではなかなか味わえない質感と言いましょうか、彼彼女たちの過ごす時間には、このアニメ特有の美しいややパステルカラーめかした背景も重なって優しい彩りが加えられているのです。青春の輝きとは少し違う、思い出のなかの優しさのような。だからそんな光景を見ているだけでも思い入れるし引きつけられてしまう。

 さて、このお話は彼女自身のエピソードや、斬新な校風や教育方針をとったトモエ学園での日々、そこに並行して「小児まひ(唯一明言されている病名)」の児童である泰明ちゃんとトットちゃんがお互いの抱えたものを乗り越え仲良くなる話が行われていきます。

 ひとつひとつのお話で、人間として仲良くなっていく過程のお手本のような、相手を大事にすることの「難しさ」を描いたり、小さな困難を共有しながら乗り越えていくことで少しずつ前向きに変わる日々を描きます。

 そんなふたりの近づく日々が互いに違ったものを与える描写が繊細かつ、アニメーション表現としては感情が表現に「こぼれるような」感覚になる。一冊の絵本のようなシーンを構成したり、とても自由で解き放たれています。ああ、映像を通して感動を覚えさせることには、まだ色んな可能性があるのだと気づかせてくれました。

 まあ、とにかく語りすぎるとどうしても筆者のよく分からない感情が不可分になって、取り留めがなくなっていきそうなので、少しだけセーブして、魅力を伝えていくことで締めとさせていただきます。

 この『窓ぎわのトットちゃん』というアニメ映画は、映像の美術としてのみずみずしさ、限りなく生に近い人間を描く物語を受け止める活きた力強さ、それからあえて言葉を尽くさなかったことがアニメーションできちんと説明をつけられる、とても素晴らしく、表現の自由さや美しさ、人間の心とはその育てかたとは、そういったところを、まっすぐに描き尽くした、とても豊かな人間讃歌のような作品でした。

 個人的に大好きなシーンは、終盤のチンドン屋さんからの、トットちゃんの心の成長を感じさせるシーンと、トットちゃんたちがおまわりさんから逃げるスパイのようなワンシーン、それに『雨に唄えば』を思い起こすような泰明ちゃんとの美しいシーンでした。


 

 tottochan-movie.jp

 

1位. 北極百貨店のコンシェルジュさん(Production I.G)

 物語のノリの良さや映像の迫力を存分に活かした娯楽性がとても強い作品、共感性や表現の力に溢れた作品を上位にランキングしたなかで、この作品というのは、多少地味に映るのかも知れません。

 ただ、ひとつ言えることは昨年の作品群のなかで、個人的に最もアニメーション映画として、特にデパートやショッピングモールの劇場みたいなところで観る作品として、とても素晴らしく、多くのものをやさしく与えてくれたからだと思います。

 これは、クールアニメのほうでのランキング1位にも選ばせていただいた『オーバーテイク!』にも共通する部分なのですが、誰かに手を差し伸べること、というのは「優しさという名のエゴ」なのだと自分は深いところで思っています。

 誰かになにかを贈るとき、それがただ無償で、対価を求めないものであるのならばどんなに素晴らしいことかと思っています。それは有り得ることなのかも知れません。親の子への愛というのが、もしかしたらそういう形を持つこともあるかも知れません。

 ただ、それを簡単に信じるには人間の心の形は複雑で、表現する時点でなにもかもが後ろめたくなるものなのです。

 この作品はその憂いや絶望に似た断絶のようなものから、少しだけ解き放たれたところにあります。

『オーバーテイク!』がその勇気を得るまでの絶望から再起を描ききった傑作とするならば、こちらは「優しさ」を変に形取らない、感情や行動に名前をつけないような作品でした。だからこそ、北極百貨店のコンシェルジュさんの差し伸べる手に憧れて、その仕事に就いた秋乃さんの行動は、ただ、もっと無邪気な憧れから始まります。

 だけれども、相手にとって行動で助けになること、それは同じ目線を持てたところからでないとスタートできません。そんなスタート地点手前の彼女の、お仕事成長譚は同時に、相手にどういった気持ちで接すれば「助け」になるかを教えてくれます。

 時には相手の目線でひとつのものを見つけるために駆けずり回ること、時には広い視点から求めるものがきちんと届くように目を配ること、それは接客業として大事なことでもあり、「誰か生き物を相手にするとき、忘れないほうが良い感覚」でもあります。

 

ペンギンのお客様目線

 とここまで書くと大袈裟で複雑な深い感情描写に溢れた少し重苦しい作品と思われるかも知れませんが、それは全く違います。

 こういったテーマ性を持ち合わせながらも、お話としてはてんやわんやのお客様お手伝い劇を、さまざまなエピソードの上手い折り重ねによる抜群にテンポの良く口当たりの軽いコメディのように描いていきます。

 映像としても、にこやかだったり焦ったりを行ったり来たりする秋乃さんや、キャッチーなデザインで可愛く描かれた絶滅種(絶滅危惧種ではありません)のお客様などのときにその動物の習性でもある多彩な表情描写を用いてとても彩り豊かに見せてゆきます。

 そして、やはり先述のような側面を持つ作品で忘れてはならない部分にもしっかり触れていきます。

「想いの強さ」がエゴに変わってしまう瞬間、ネガティブな思い出が生まれるかもしれない瞬間、この時に、秋乃さんがこれまで頑張ってきたからこそ、走り回って「お客様の目線に立つよう努力して」、でも憧れのコンシェルジュさんみたいになる思いがあったからこそ簡単に飛び越えられるエゴ(彼女が珍しくお客様になんの論理もなく、ただお客様への優しさの感情だけで謝るシーンがありますが)のような優しさを、形として相手に渡すことのできる、その躊躇いのなさが全てを包み込むように救う、そんな瞬間に涙の溢れる、穏やかで優しいけれども一流のエンターテイメント。

 ほんとうに口当たりの軽い1時間強のアニメーションは、あっという間です。

 これが面白い。

 ちょっぴり作品外のお話になるのですが、劇場アニメというものは観ようとするのに、ちょっとした勇気が必要で、「それ観るからにはどれだけか良いものが観られるんだろうな?」みたいなハードル設けちゃう思いというのもゼロではない気がします。

 体験として、色々と求めてしまうものです。

 そんななかで、作品として提供されるものがこれ。年間ベストに入れている通り、とても素晴らしいと思った内容のアニメーションを味わえた嬉しさが、そのまま劇場から出ても、自分が触れた場所が百貨店のような場所のシネコンだったこともあり、地続きの体験のように映っていくんですね。

 なんかの映画を観て肩で風を切って歩くひとのように、作品を観た後の味わいが疑問としてではなく充実感として残ってくれるのです。

 この映画を観たあと、なにをしようと思ったかって、そりゃあ、優しくしたい親しい誰かに贈りものをしたくなりました。

 ほんの少しだけでも良い、自分の考えかたを優しく変えてくれるアニメーションです。自分にとって大好きにならない理由がありませんでした。

 好きな登場人物は一名を除いたほぼ全員です。秋乃さんやペンギンのお客様、ニホンオオカミのお客様など、とても繊細で人間のような性格も備えたお客様たちの心の機微が、どこか自分にとって置き忘れた部分に刺さって好きです。

 好きなシーンは、まあ、分かりやすいいちばん素敵なシーンが来るので、それを作品に触れて体験していただけたらと思います。

 穏やかなテーマなのに、しばらくの間、自分にとっての「誰かに手を差し伸べる行為とは」という、前向きな思考が頭に残る素敵かつ素晴らしいアニメーション映画でした。

配信開始されたらぜひ、北極百貨店にご来店くださいませ。


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hokkyoku-dept.com

 

 

・おしまいに

 とまあ、このクソ長え記事にお付き合いくださった方、心からありがとうございます。正直、自分の書いてきたような中編小説よりよっぽど長いくらいです。

 自身の置かれた環境による心境の変化なども多少あったり、作品に対する自分なりの「見方」のようなものが見えてきて、いつもより必ずしも娯楽的でない作品などがランキング入りした感覚ではございますが、かなり感情と理性と主観と客観性みたいなところをすり合わせつつ、「自分が『好き』と力強く言えるもの」を選ばせていただきました。

 できることなら、やっぱりこの記事を読んで、実際の作品に触れていただけたら、著者としても浮かばれる思いです。

 というかね、ここまで読んで損した気分にさせたくないから皆さん、ランク入りした作品で気になるものがあれば絶対に楽しんでくれよな!

 

「あとチャンネル登録と高評価、よろしくお願いします!」

「YouTuberじゃないんだよ! 逮捕されるぞ!」

「はてなブロガーだよ」

「はてなブロガーがこんな記事書くかよ! 長くても2,000字で止めるわ! もういいよ!」

「ありがとうございましたー! 12024年もね、よろしくお願いしますー!」

「タイムリープものならきちんと元の時代まで帰れよ!」

 ほんとうにありがとうございました!(ちなみにこの記事の文字数は約46,000字です)